放課後
いつものように
いつもの場所で
いつもの清十字団のメンバーが集まって何やら話し込んでいた
至近距離でごにょごにょと話し合う輪の中には何故か男子の姿は無い
ついでに言えば、リクオの側にいつもぴったりと寄り添うように居るつららの姿も無かった

カナと巻と鳥居とゆら

今、この場所にはこの4人しか居なかった
もとい
5人であった
この部活に異常なまでの情熱を燃やす部長こと清継が、いつもの部長席で熱心に愛用のパソコンを弄っていたのだが
乙女達の世間話には全く興味を示さず先程から黙々と妖怪掲示板のチェックに情熱を燃やしていた
そして女性陣達はというと
そんな清継の事など気にする風でもなく話に花を咲かせていた
話と言ってもそこは女の子
話題はもっぱらどこのお店のスイーツが美味しかったとか、あのお店のアクセサリーが安かったとかそんな話ばかりだ
しかも、女の子な会話には無頓着なゆらも何故か会話に加わっていたのだが
彼女の場合、興味を示す話の内容はもっぱら旨いお菓子のお店やら激安スーパーなどの情報ばかりであった

「そういえばさ〜」
そんな世間話が花咲くその輪の中で
ひと際大きな声が聞こえて来た
そのどこか意味深な声音に一同ぴたりと会話が止まる
そしてその一声を上げた相手に皆の視線が集中した
その視線の先には、自称不良で金髪つり目の巻が居た
皆の視線が自分に集中した事に気を良くし、巻は皆を順に見遣りながら口元をニヤニヤさせてゆっくりと話し出した

「そう言えば奴良と及川っていっつも一緒に居るじゃん?あの二人付き合ってるのかな?」
その言葉に一同目を見開く
それは巻だけでなく、皆が疑問に思っていた事だった

『奴良リクオと及川つらら』

突然清十字団に現れた及川つららは、いつの間にか気がつくとリクオの側にぴったりとくっつくように居るようになった
小・中と同じ学校に通っていたゆら以外のメンバーはお互い顔を見合わせ合う
「そういえば……」
「どうなんだろう?」
小学校の頃は見かけた事が無かった
いや、実際には居たのだがリクオの護衛として潜入していたつららと青田坊は極力他の子供達と接触しないように努めていただけなのだが……
そんな事実を知る由も無い彼女らは益々不思議だと首を傾げ合った
「小学校の時は見たこと無かったよね」
「うん、私もリクオ君とは幼稚園から一緒だったけど及川さんの事は最近知るようになったんだよね」
「でしょ?な〜んか怪しいじゃないあの二人」
「そ、そう言えばこの前近くのスーパーが特売やってたんやって〜……」
鳥居の質問にカナが恐る恐る答えていると、ニヤニヤ笑顔のままの巻が得意げに相槌を打ってきた
それを聞いた事情を良く知るゆらは、慌てて話題を変えようとしたのだが
何故かもの凄い迫力の巻の一瞥に瞬殺されてしまった

ううう、陰陽師やのに……

妖怪でもないただの女の子の視線に負けた事へのショックでゆらは真っ白になった
そしてゆらが離脱したまま話は進んでいく

「二人っていつも一緒に居るじゃん?いつの間にそういう関係になったんだろうね〜?」
「そ、そういう関係って……べ、別に決め付けるのは良くないんじゃ……」
「え〜でもそのまんまだよね〜」
したり顔の巻の言葉にカナが抗議の声を上げるが基本、巻寄りの鳥居に撃沈されてしまう
すっかり二人を恋人に仕立て上げた巻はカナの反応を楽しんでいるようだ
それに拍車をかける鳥居は天然無自覚なまま話に参加している
そしていつの間にか巻のからかい相手にされてしまったカナは、想像したくない幼馴染の話にしどろもどろになっていった

「いっつも一緒に居るし、毎朝奴良の雑用の手伝いしてるしね〜」
「あ、そうそう!毎朝一緒に同じ方向から登校してくるし、帰りも一緒だし一緒に居ない時ってないんじゃない?」
「う、うん……そ、そうなんだよね……はは」
止まらない二人の会話にカナは冷や汗を流しながら相槌を打つしかなかった
そして……

「「もしかしてさ〜」」

息の合う親友同士の声が見事にハモる
「な、なに?」
カナは一瞬どきりとした
何故かこの先は聞きたくない、いや聞いてはいけないと頭の中で警告音が響いてきた
カナは知らずに座ったまま後退る
ギッ、と音を立てて椅子が後ろへずれた

「「奴良と及川って、一緒に住んでるんじゃない?」」

見事なまでの息の合った親友同士のハーモニーがカナの鼓膜を振るわせた
震えたのは鼓膜だけではなく、全身がどくんと強く脈打った
「え、え?そ、そんな……こと……」
唇がふるふると震える
顔の皮膚の内側がすぅっと冷たくなっていく
考えたことも無いその疑問にカナの思考はフリーズした

完全にパニックに陥ってしまったカナを巻は満足そうに眺めていたが、しかしこれ以上やっては可哀想だと話を止める事にした
「な〜んて、うっそ〜!そんな事あるわけ無いじゃん♪」
「へ?え?」
「だよね〜、一緒に住んでるなら奴良君の家に行った時とか及川さんが後から来るのおかしいもんね」
その言葉にカナは一瞬で脱力した
「ま、きっと親同士が昔からの知り合いとかだったんじゃないの?それで急に仲良くなったとかさ?」
そう言って面白そうにウインクしてくる巻にカナはやられたと顔を真っ赤にさせた
結局はこの二人にからかわれていたのだ
「もう知らない!」
そう分った途端カナは何故か心底安堵した
何となく腑に落ちない点も多々あったが、この話はこれ以上聞きたくないとカナは無視を決め込む事にした
丁度その時
「あれ?みんなもう集まってたの?」
件の話の中心人物が現れた事でこの話は完全に終わることとなった



そしてその帰り道
「あっはは〜、カナ面白かったね〜」
「もう、あんまりからかっちゃだめだよ巻」
豪快に笑う親友を眉根を下げながらやんわりと鳥居が窘める
巻と鳥居は夕日の沈みかけた薄暗い道のりを歩いていた
今日のカナは傑作だった
時々幼馴染の不審な行動を見ては眉を吊り上げて怒っているカナが実は気になっていた
まあそれよりも何よりも最も気になるのは今回の話に上がった二人なのだが
二人の事は巻も不思議でならなかった
部活の時にも話したが二人は一体どういう関係なのか
「まあ、遠い親戚か親同士が仲が良いって言う線が有効かな〜」
「もう、まだ気にしてるの?二人の事」
突然ぶつぶつと独り言を呟きだした巻に鳥居がジト目で顔を近づけてきていた
「え?うん、だって本当に怪しいじゃんあの二人」
「まあそう言われればそうだけど……」
巻の言葉に鳥居も段々と気になり始めてきた

一体二人はどういう関係なのか?

気になり始めたらきりが無い
疑問はまた疑問を呼び
疑いは更なる疑いを生み出す
考えれば考えるほど奴良リクオと及川つららの関係は不思議だった
「そもそも奴良に”様”付ける意味がわかんないよね?」
「あ、それ私も思った!なんなんだろうねあれ?」
「もしかして……う〜ん考えられないな〜」
「え?なに?なに?」
あれこれと話をしていると、何かを思いついたのか巻が歯切れ悪そうに言葉を濁してきた
そんな巻に鳥居は興味津々と言った顔で巻の顔を覗きこんでくる
ふと、その時……
丁度良いタイミングで噂話の人物が現れたのだった
「巻!」
「鳥居!!」
二人はこれ幸いと、お互い顔を見合わせながら頷き合うと、こそこそと二人に見つからないように物陰に隠れた



リクオとつらら
二人は家に帰った後なのであろう、制服ではなく私服姿で街中を歩いていた
その後をこそこそと付いていく巻と鳥居
リクオとつららは背後から同級生が付いて来ている事に気づいていないらしい
いつもの様に肩を並べて手を繋ぎながら目的の場所へと向かっていた
「やっぱりあの二人……」
「うっそ、マジ?」
仲良く手を繋いで歩く二人に巻と鳥居は目をまん丸にしながら驚いていた
あの繋ぎ方は俗に言う――

『恋人繋ぎ』

指と指とを絡ませ合いぴったりと握り締めあうあの手の形はまさしくそれだ
巻と鳥居は意外なものを見たと顔を見合わせあった
そしてリクオとつららはある場所で立ち止まると、慣れた動作で中へ入っていった
そこは――

主婦達の憩いの場『スーパーマーケット』だった

「へ?」
「いや、ちょっと……これは」
巻と鳥居は意外な場所に目を点にさせていた
「こ、恋人繋ぎしながらスーパーって……」
「ナニコノテンカイ」
既に意外を通り越して驚愕する二人に更なる追い討ちがかけられた
「ぶっ!」
「な、なにコレ、なにアレ〜〜!?」
絶叫する二人の視線の先には――

仲良くカートを押しながら「今晩のおかずは何?」と聞いているリクオの姿があった

「今晩のおかずって……オカズッて〜〜、えぇ!?」
「や、やっぱりあの二人……」
震える声でまた顔を見合わせあう
「これは」
「もう」

最後まで見届けるっきゃない!!

ここまで来たら後には引けないと巻と鳥居は覚悟を決めた



すっかり夜の蚊帳が降りた夜道を親友同士は無言で帰る
興奮冷めやらないその顔はほんのりと紅潮していた
「あの二人……」
「うん」
二人の会話はそこまでだった
しかし胸中で渦巻く絶叫は溢れんばかりで

ま、まさか、まさか私が言った冗談が本当だったなんて〜〜〜

す、凄いもの見ちゃった……

まさか……まさか二人が



「「同棲していたなんて〜〜〜〜」」



もう我慢の限界
奴良家から離れるまで声を上げないように必死に堪えていた二人はとうとう絶叫してしまった
知ってしまった秘密
これは大スクープだ
でも……

「巻」
「鳥居」
秘密の共有者達はお互い顔を見合わせあう
そしてそっと心に誓うのだった

この秘密は秘密のままにしておこう、と……

それは
鈍感なもう一人の幼馴染の為に
そして
告白する前から失恋確定の憐れな日本代表サッカー部のエースの為に

巻と鳥居
二人はお互い頷き合うと、既に暗くなった夜道を急いで家に向かって帰るのであった



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