いよいよ三代目総大将リクオと雪女つららの祝言が明日に迫った結婚前夜。
奴良組本家は浮き足だったお祝いムード一色で、そこかしこで妖怪たちが前祝いと称して酒を飲んでいた。
しかし、結婚式前日にそんなことをしているのは暇な男衆くらいで、女衆は総出で明日の料理や給仕、広間の用意にと、最後の打ち合わせに大忙しであった。
さて、そんな中、肝心の三代目はというと・・・・

「つらら。やっと、明日、お前は俺のもんになるんだな。」
「は、はいっ」
結婚前夜にもかかわらず、いつものようにつららを口説いていた。
月明かりに照らされた縁側で、リクオはつららに酌をしてもらいながら、酒を楽しむ。
「お前に注いでもらう酒は、格別だ。」
リクオは妖艶に笑う。
「・・・・っ///////」
つららは真っ赤になってうつむいた。
「それに・・・・」
リクオはそっとつららの手を握った。
「明日からは、雪見酒が毎晩飲めるしな。」
リクオはニヤリと笑った。
そしてつららの耳元に唇を寄せて、囁いた。
「・・・・・布団の中で。」
「・・・・・・・/////////!!」
つららは声にならない悲鳴をあげて、近すぎるリクオの顔に仰け反った。
「この帯、明日にはほどいてやるからな。」
リクオは距離を取ろうとするつららを引き留めるように、彼女の手をそっと掴んだ。
「あああああの、リクオ、さま・・・!」
つららは真っ赤になってウロウロと視線をさ迷わせた。
「なんだ?」
相変わらずリクオは熱っぽくつららを見つめ、色気全開の声音で囁いた。
「ち、近い、です・・・・・!」
つららは掴まれていない方の手でリクオの肩に手を置き、なんとか押し止めようとする。
「近くなきゃ、口吸いできねぇだろ?」
リクオは妖艶に笑って、つららの背中に腕を回すと、言うが早いか、あっという間につららの唇を奪ってしまった。
「んんっ・・・・・・!」
つららは堪らず、くぐもった声を上げた。
リクオは口付けを深めつつ、至近距離からつららの恥じらうの表情を堪能する。
キュッと閉じられた目、ふるりと震える長いまつげに、赤く染まった頬、時折唇から漏れる甘い声に、リクオの熱はさらに上がる。
ついにつららの唇を舌先で割り、彼女の口内に侵入を果たす。
「んぁ・・・・」
リクオの肩を押し返していたはずのつららの手は、今や彼の寝間着をぎゅっと握りしめ、翻弄する舌の動きに反応するようにピクリと震える。
「ん・・・・ふ・・・・」
つららは微かに香る酒の匂いに、くらくらと酔ってしまいそうだった。
リクオは執拗につららの舌を追いかけ、歯列をなぞり、上顎を舐めつくし、徐々につららの理性を剥いでいった。
「んっ・・・ァ・・・・」
少しも経たないうちに、つららはすっかりリクオのされるがままになっていた。
舌を絡め取られ、口内を蹂躙され、吸い上げられる。
ちゅく、ぴちゃっと、部屋に響く舌の絡む水音が、聴覚からもつららを犯していく。
どれだけ経ったのかわからなくなるほど、味わい尽くされ、やっと唇が離れた時には、つららの息はすっかり上がっていた。
「はぁ・・・ッ、ふ・・・・」
「・・・・色っぽいな。」
リクオはペロリと唇を舐め、ニヤリと笑いながら、腕の中のつららを見下ろした。
「りく、お、さま・・・?」
見上げるつららの表情は、官能的で、リクオの情欲を煽るものでしかない。
寝間着は乱れ、袷からは真っ白な肌が覗き、艶やかな髪が乱れ、トロンとした瞳は、快楽に墜ちる寸前の色を孕んでいる。
リクオはごくりと喉を鳴らして、つららの白い首筋に顔を埋めた。
「ひゃ、ぁんっ・・・・」
ペロリと首を舐められて、つららはあられもない声を上げた。

リクオは誰もいないとはいえ、縁側であることもお構いなしに、つららの身体に手を這わせ、寝間着ごしにさわさわとまさぐり始めた。
「ぁ・・・や・・・リク、オさまぁ・・・」
つららは首筋に与えられる感触と、身体を這うリクオの手に、背中をゾクリと駆け上がる奇妙な感覚に襲われた。
「つらら・・・・」
リクオは、艶を含んだ声で彼女の名を呼ぶ。
初めて味わう彼女の雪肌は、甘く、冷たく、極上の舌触りだ。
加えて、薄衣ごしに触れるつららの身体の柔らかさに、身体の中に熱が溜まっていく。
「あ、ダメ、リクオ様・・・!」
つららは、力の入らない手でリクオの肩を押し返していた。
「はぁ・・・・」
リクオは熱い息を溢してつららの首筋から離れた。
これ以上したら、まずい。
完全に止まらなくなる。
リクオは主張し始めた自分自身を自覚しはじめて、つららに当たらないよう、さりげなく腰を引いた。
快楽を求めて堕ちそうになる理性を繋ぎ止め、乱れたつららの寝間着をそっと直した。
つきあかりの下、見下ろすつららの顔は真っ赤に染まり、目はとろりと潤み、なんとも色っぽい。
「リクオ様。」
「つらら。」
「明日、私は貴方のものになります。」
つららは潤んだ目を細めて言った。
「ああ。」
リクオは嬉しそうに微笑んだ。
「身も、心も、貴方のものです。」
つららはリクオの頬に自分の手の平を伸ばした。
「・・・・ああ。」
リクオはつららの冷たくて心地よい手の平の感触に目を閉じた。
なんと、嬉しい言葉だろうか。
プロポーズしてから、一気にここまでこぎ着け、強引に進めてきたが・・・・つららからハッキリと気持ちを聞いたのは初めてだった。
「・・・・愛してます。」
つららの涙で潤んだ瞳を見つめ返し、リクオはじんわりとした熱が心を満たすのを感じた。
「俺も、愛してる。」
リクオは微笑んで、ひんやりとしたつららの頬を両手で包み込んだ。
つららは頬を包むリクオの手に自分の手を重ね、嬉しそうに笑った。
「今日は、ここまでにしといてやるよ。」
リクオはニヤリと笑って、つららを抱き上げた。
部屋に入り、つららが用意したらしい布団に彼女を降ろし、自分も潜り込む。
リクオはつららの背中に腕を回すと、耳元で囁いた。

「明日は、寝かさねえから。」

ビクリと身体を震わせたつららは、真っ赤な顔で恨みがましそうにリクオを見上げた。

「・・・ッ、今夜も眠れそうにないですっ・・・」

リクオはくくっと笑った。
「そうだな。」


夜の帳の中、二人分の寝息が聞こえてきたのは、それから随分経ってからだった。


明日は、祝言。
もちろんリクオの宣言通り、つららは寝かせてもらえなかったことは、言うまでもない。

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