「さ、つららここへ座って」

差し伸べられた手
優しい眼差し
見慣れた爽やかな笑顔



これは

拷問ですか?



いつもの声で
いつもの笑顔で
そう言ってのけた目の前の青年に向けて
少女は胸中でそう思ったのだった





「つらら、どうしたのさ?さぁ、遠慮せずに座って」

足もとにある椅子を指し示しながら尚も勧めてくる青年に、少女は冷や汗を流しながら後退っていく



お気持ちは嬉しいのですが・・・・・・



にこにこと屈託のない笑顔を向けて言う主に、つららと呼ばれた少女は戸惑っていた

気持ちは嬉しい
気持ちは



しかし



つららは己の体を隠すべく両腕をクロスしながらそれを握り締めると更に後に下がっていった





夕刻
夕餉の準備で忙しく動き回っていたつららの元にリクオが突然やって来た
そして

「後で用があるから、夕ご飯を食べ終わったらここへ来て」

と珍しくリクオの部屋以外の場所を指定され、向かったのが十数分前
そしていつもの笑顔を張り付かせたリクオに無理矢理ここに放り込まれたのが先程だった

つららは、じりじりと近づいてくる主を警戒しながら後退していく
捕まるか捕まらないかのギリギリの距離を保ちながらつららは胸中で呟いていた



な、なんでこうなってしまったのでしょう〜〜??



にこにこと屈託無く笑いながら近づいてくる主に内心涙を流しながら嘆く

リクオが指定してきた場所は、何故か大浴場であった
そして先に来ていたリクオに中に入るように命令された
最初、湯加減でも悪かったのかと思い主の言われるがままに脱衣所へと足を踏み入れたつららであったが

それがいけなかった

背後からいきなり襲ってきたリクオに、あれよあれよと言う間に身包みを剥がされ
気がついたら浴室に放り込まれていた
熱い湯船の中へダイブするという事は免れたが
しかし
身包みを剥がされ隠すものも何も身に纏う暇すら与えられず放り込まれたつららは、素っ裸な自分の姿に激しく羞恥し途方に暮れた
しかしリクオが浴室へ入ってくる直前、たまたま置き忘れられていた手ぬぐいを見つけ慌ててそれを身に纏い難は逃れた
その瞬間、薄布一枚で申し訳なさ程度に体を隠すつららの耳に「ちっ」という舌打ちが聞こえたような気がした
慌てて前を見ると、これまたつららとほとんど変わらぬ姿のリクオが立っていた

腰にはぬの字の入った手ぬぐいを巻き
そしてその手には何故かスポンジが握られていた

そのお互いあられもない姿に、つららはようやく主の意図を掴み始めた
嫌な予感につつ、と冷や汗が頬を流れていく



「つらら、いつも僕の世話をしてくれてありがとう。今日はそのお返しに僕がつららの背中を洗ってあげるね!」



主の意図をやっと掴み始めたつららに、その主から超特急な答えが返ってきた
その科白につららが暫し固まる



「はい?」



たっぷり三分もの間を空けてつららの間の抜けた返事が返ってきた

「うん、だから僕がつららを洗ってあげるんだよ」

目を見開き真っ青な顔で頭にはてなを浮かべたまま口元を引き攣らせるつららに
にっこりと爽やかな笑顔を乗せてリクオが簡潔に説明してきた



「・・・・・・・・・・・」



「・・・・・・・・・・・」



「・・・・・・・・・・・」





「ええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」





瞬間、つららから絶叫が響いた

大浴場を震わすほどの絶叫の余韻が消えた頃、リクオはゆっくりとつららへとまた近づいていった



「そんなに驚かないでよ」

「ひえぇぇぇぇぇぇぇ!!」

笑顔のリクオの科白の後に続く少女の悲鳴
ズザッと大袈裟なほど盛大な音を立てて後退る音が聞こえてきた

「傷つくなぁ〜もぅ〜」

そんなつららにリクオは困ったように眉根を寄せる
しかしその表情は笑顔のまま
にこにこと、笑顔を張り付かせたリクオにつららは更に困惑した



リ、リクオ様……笑顔なんですけど、けど……



そう胸中で呟きながらちらりと見遣る
見た瞬間つららの頬が真っ赤に染まった

主は笑顔だった

それは、いつも見るあの爽やかな笑顔だった

しかし

にこにこと人懐こい笑顔の下

ぬの字の手ぬぐいで隠された場所が、不自然なほどに隆起していたのだった



こ、これって……



つららはその膨らみを見間違いだと信じたかった
しかし現実は残酷で
ゆっくりと近づいてくるリクオの姿が近くなるにつれ
そこの輪郭もはっきりしてきて……



ぽん



気がついた時にはリクオがすぐ近くに来ていた
しかも肩を叩いてにっこりと微笑んでいたのだった



「さ、つららそこへ座って♪」



側近頭の運命はいかに?

裏に続く→

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