今日は待ちに待ったクリスマス
煌びやかなイルミネーションや巨大なモミの木が街を彩る
この日ばかりは皆浮き足立ち、仕事帰りのサラリーマンは片手にケーキやシャンパンを持って家路へ急ぎ
若いカップル達は淡い期待を胸に街を歩いていく
街全体がクリスマス気分に浮かれていた
そして、ここにもクリスマス気分に浮かれまくる者たちがいた
都心の一等地に建つ奴良家でも、クリスマスの準備で朝から大騒ぎだった
妖怪任侠一家なのに、キリスト教のお祭りを祝うとはなんとも奇妙な光景なのだが
お祭り好きの妖怪達はただ単に酒が飲めるという理由だけで人間達の催事に便乗していた
「さ、ケーキの用意もできたし、後は飾りつけだけね!」
台所で他の女衆達と巨大なクリスマスケーキを作っていた若菜は、出来上がったケーキを見上げながらふぅ、と額の汗を拭っていた
「今年は力作ですね」
「凄いわね〜!」
「みんなびっくりするわよ〜♪」
若菜同様、ケーキ作りを手伝っていた女衆達もその見事な出来栄えに、嬉しそうに笑いあっていた
毎年趣向を凝らして作られているケーキだが、今年は更に去年よりも大きくそして立体的になっている
クリスマスツリーを模ったケーキはその大きさも重量もいつもの5倍はあろうかと言えるほどだった
「後で青田坊達に運んでもらいましょう」
若菜の隣で嬉しそうに出来上がったケーキを見上げていた毛倡妓は、名案だとばかりに手を合わせて言って来た
「そうね、あら・・・そう言えばつららちゃんは?」
毛倡妓の言葉に頷いていた若菜は、先ほどから姿の見えないつららに気づき、毛倡妓に聞いてきた
「ああ、それなら向こうでプレゼントを配る係りになってもらってますよ」
「あらそうなの?」
「ええ、今年は趣向を凝らしてみました♪」
そう言って、うふふふと意味ありげに笑う毛倡妓に若菜は不思議そうに首を傾げていた
「ふう・・・」
庭に面した廊下で、つららは一息ついていた
目の前には大きな白い袋が、行く手を阻むように置かれている
もちろんこれは、つららが先ほどまで抱えていたものだ
ついでに言うと、今つららはサンタの格好をしていた
トレードマークの真っ赤な帽子に真っ赤な服、真っ白なタイツも履いている
お話に出てくるサンタと違う所といえば
サンタはおじいさんだが、つららは女の子だった
更にサンタは大きなお腹に白い髭がトレードマークだが、つららは大きいお腹も真っ白い髭も持っていなかった
しかも、サンタカラーのミニワンピース姿に扮したつららは、文句無く可愛いかった
先ほどまでサンタならぬサンタガールになって本家の妖怪達にプレゼントを配っていたのだが、その仕事も大体終わりあとはリクオに渡すのみとなっていた
もちろん、今回はクリスマスということもあって、気乗りはしなかったがいつも庭の木の上にいる牛頭丸や馬頭丸にもプレゼントを渡してあげた
プレゼントを渡すとき、何故か牛頭丸だけは頬を赤らめていたのだが
どうしたの?と聞く前にプレゼントを奪い取ると、逃げるように去って行ってしまったのでつららにはその真意を確かめることはできなかった
しかも、去り際に馬頭丸がくすくすと肩を震わせていたのも気になる
気にはなったのだがまあ、つららにとってはどうでも良いことだとそれ以上は追求しないでおいた
「さて、後はリクオ様だけだわ、帰ってきたら渡しましょう」
そう言いながら、白い大きな袋の中に一つだけ残っていたプレゼントを確認した
今現在リクオは家に居なかった
もちろん清十字探偵団のクリスマス会に強制参加させられているのだ
つららも誘われたのだが、本家のクリスマス会の準備があるため断った
護衛は青田坊と黒羽丸達に任せたので安心は安心だ
なのだが・・・・
それでも一緒に行けなかった事を、つららは少々残念に思っていた
「今頃は家長達と楽しく過ごされているのかしら?」
つららは薄暗くなってきた空を見上げながら一人呟いた
「ただいま〜」
夕食には少し早い時間、リクオが清十字探偵団のクリスマス会から帰ってきた
「お帰りなさいませ〜」
「あ、若お帰りなさい」
「クリスマス会は楽しかったですかい」
廊下で遊んでいた小妖怪達が、わらわらと集まってきて嬉しそうにリクオを迎える
そんな無邪気な小妖怪たちに、にこりと笑みを零しながら「うん、楽しかったよ」と言いながら家に上がり自室へと通じる廊下を歩いて行った
その途中で、聞き慣れた明るい元気な声が聞こえてきた
「若!お帰りなさいませ!」
ステテテテと嬉しそうに、にぱっと笑顔を作りながらこちらへ走ってくるのは、リクオの側近であり世話係でもあるつららだった
何故か街でも良く見かけた真っ赤なワンピースと三角帽子を身に付け、肩には巨大な白い袋を抱えていた
「ど、どうしたのその格好?」
「へ?わきゃあ!!」
「つらら!」
リクオが驚いてつららの姿を指摘したとき、廊下を走っていたつららは案の定、何も無い所でつまずいてしまった
手には巨大な袋、受身を取ろうにも咄嗟の事で手が出ない
このままだと顔面直撃する!とつららは覚悟を決めて目をきつく閉じた
とすん
次の瞬間、体に感じる浮遊感と温かい感触
「ふ〜、まったくお前は・・・・」
そして、頭上から聞こえてくる安堵の声
「あ、り、リクオ様」
何が起こったのか瞬時に理解してしまったつららは、頬を赤らめて目の前の温もりを見上げた
そこには、眉根を下げてしょうがないな〜と苦笑するリクオの顔があった
「す、すすすすみません!!」
つららは己の失態と、リクオに抱き締められているという恥ずかしさで、慌ててリクオから離れた
そんなつららを少しばかり惜しく思いながらも、リクオは抱き留めていた腕を離した
「まったくつららは、相変わらずドジなんだから」
気をつけるんだよ、と言いながら優しい手つきでつららの頭を撫でる
「はい・・・申し訳ありません」
とシュンと項垂れるつららに苦笑を零すと、リクオは先ほど疑問に思ったことを尋ねてみた
「それより、何でそんな格好をしてるの?」
「あ、これですか?今回は私がプレゼント配りのくじに当たったんですよ〜」
似合いますか?とワンピースの裾を持ってくるりと回って見せた
ふわりと揺れる際どいラインのそのスカートの丈に、思わずドキリとしてしまったが、それを億尾にも出さずにリクオは爽やかに言ってのけた
「うん、すごく似合ってるよつらら」
うん すごく とっても 可愛い・・・・まるで
食べちゃいたいくらいに
嬉しそうにはにかむつららを目を細めて見つめながら、リクオは心の中でそう思っていた
クリスマスパーティーと書いて酒宴と読む奴良家では
夜半を過ぎたにもかかわらず終わるどころか、これからが本番だと言わんばかりに更に盛り上がりを見せていた
そんな喧騒の中、月見酒に洒落込もうとする男がここに一人
夜の姿へと変化したリクオが、縁側で煙管を弄びながら待ち人を静かに待っていた
「お待たせしました」
暫くすると、つららが熱燗の入ったお盆を持ってやってきた
「おう、悪いな」
リクオは待ち人であったつららを見上げながら、にやりと口角を上げる
そっとリクオの横に盆を置きながら、つららは忙しなく身じろいでいた
どうやら足元が気になるらしい
少し恥ずかしそうに俯くつららを、にやにやと見上げながらリクオは感嘆の声を漏らした
「似合うな」
「もう、からかわないで下さい」
リクオの言葉につららは頬を赤く染めながら抗議する
「いや、本当だって」
そんなつららにリクオは苦笑しながら言った
「ううう、恥ずかしい」
つららは堪らないとばかりに両手で顔を覆うと、恥ずかしそうにその場に座り込んでしまった
つららが何故ここまで恥ずかしがっているのかというと
その原因はつららの今の姿にあった――
真っ赤なワンピース
真っ赤な帽子
昼間と同じようにサンタの格好をしているだけなのだが・・・・
しかし、その素材もデザインも昼間のそれとは大きく違っていた
限界ギリギリまでしかないスカートの丈
肩が剥き出しの上半身は胸からしか布が無く、さらに中央はへその辺りまで大胆に開いている
体を包む布地は、胸元や腰のラインを強調するかのように肌にぴったりとくっつき
白く瑞々しい足は今は黒の網タイツで申し訳程度に隠されて(?)いるくらいだった
思わずごきゅりと喉が鳴る
男ならば誰でもそうなってしまうだろう
今のつららは――
本当においしそうだった
我慢できず投げ出されたその白い足をさわりと撫でると、つららは慌てて顔を上げた
「ひゃ、ひゃああ!リクオ様!」
いきなり触られた羞恥に服から露出している肌という肌が赤く色づく
そんな艶かしい反応に、リクオは嬉しそうに目を細めると自身の唇を舐めた
その仕草に、何やら全身をセクハラされているような感覚に見舞われたつららは、慌てて熱燗を持ちリクオに勧めた
もちろん手には厳重に分厚い鍋掴みをはめている
「り、りりりリクオ様、お酌しますお酌!!」
「ん、ああそうだな」
そんなつららにくすりと笑みながら杯を差し出す
そこへ震える手で酒が注がれると、リクオは一気に酒を飲み干しまた杯を差し出してきた
そんな動作を数回繰り返していると、あっという間に酒は無くなってしまった
「あら、もうお酒が・・・取り替えてきますね」
いささか急ピッチ過ぎるのでは?とつららがリクオの身を案じたのだが、酒が無くなっては月見酒にならないと思い、仕方なく酒を取りに向かおうと立ち上がりかけたつららへ、リクオの制止の声がかかった
「いや、酒はもういい」
「え? きゃっ!」
言うや否や、リクオはつららの腕をぐいっと引っ張り自分の元へ引き寄せると、腕の中へ閉じ込めてしまった
「ひゃ、ひゃあぁぁぁぁ!リクオ様何を!?」
腕の中に拘束されてしまったつららは顔を真っ赤にさせてリクオの中で暴れまくる
そんなつららにくすくすと笑みを零しながら、動けないようにぎゅうっと強く抱きしめてやる
更に密着したつららはパニックになり、黄金の螺旋の瞳をぐるぐる回しながら「ひええ」と小さく悲鳴を上げた
頬に押し付けられるリクオの厚い胸板
背中に回った腕は力強く自分を抱きしめ熱い
冷たい太ももにはリクオの足が逃がさないとばかりに絡み付いていた
剥き出しの肩から足からリクオの熱が伝わってきて、つららはのぼせたような感覚に捉われた
はあ、はあ、と窒息寸前の魚のように、リクオの情熱にのぼせたつららはリクオの腕の中でぐったりとする
その姿を見下ろしていたリクオはにやりと口元を歪ませると、そろそろ良いかと行動に走った
そっとつららの耳元へ熱い吐息を混ぜながら囁いてやる
「せっかくのクリスマスだ、今夜は雪が見たいんでな」
つらら
と甘く囁くと、リクオの手がするするとつららの体を撫で回していった
「ひゃあっ!」
リクオの手の動きに、つららの沸点していた頭でも気づいた
これから何をされるのかを
「やっぱりクリスマスは雪だな」
にやにやと嬉しそうに囁きながら、リクオは一晩中つららを触りまくっていたそうな
え?どんな風にって?
それは二人だけの秘密です・・・・
メリークリスマス
今宵みな様にも素敵なクリスマスが訪れますように
了
おまけ→
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