夜空に輝く満点の星
街には煌びやかなイルミネーション
最近では街の中だけでなく、住宅街でも見られるようになったそれ
各家では電飾を家の周りや庭に飾り、それぞれその光の演出を披露している

クリスマス

空も街も家も、みんな光に彩られるその日
その光の中――
満天の星空の中に黒い川のようなものが一筋できていた

「リクオ様、ほ、本当にやるのですか?」
その黒い川の中
ひゅうっと吹く風に髪を煽られながら、白い着物を着た少女が恐る恐る尋ねていた
「おう、当たり前だろう」
少女の視線の先、訪ねられた若者は手綱を手に豪快に返事をする
若者の持つ手綱の先には――

巨大な蛇

散歩の共でもあるその大蛇の口に、その手綱を咥えさせ
まるで馬に乗るかの如くその大蛇の背に跨り、白い着物を着た少女を後ろに乗せて夜空を駆け抜けていた
走れシルバーと手綱をピシリとやる姿はどこかまぬけだ
しかもその若者は巨大な袋を肩に担いでいる
さらに言えばその若者の乗る大蛇の後ろには有象無象の魑魅魍魎の群れが後を付いて来ていた

「三代目、そろそろ着きますぜ」
大蛇の直ぐ後ろを付いて来ていた青い僧服の大男が、若者に向かってそう言ってきた
「おう、そうか!じゃあ皆、じゃんじゃん配ってくれ!!」
そう言って嬉しそうに振り返った若者の一声で、背後に付いて来ていた魑魅魍魎たちが一斉に動き出した
若者の肩に担がれていた袋から、綺麗に包装された箱を何個も取り出し地上へと降りていく
その様子を満足そうに見下ろしていた若者は、手綱を引くとまた夜空を駆けていった



コトリ
コトリ
またコトリ
こっそりと置いていくプレゼント

わくわくドキドキ

こうやってこっそり忍び込んでプレゼントを置いていくのは、なかなかスリルがあって楽しい
若者はうきうきしながら、次から次へとプレゼントを配って回っていった
家から家へ、屋根を伝い部屋へと侵入する
「これはカナちゃんの」
「これは清継君の」
「これは巻さんへ」
「これは鳥居さん」
「これは島君」
皆それぞれに優しい微笑を乗せて枕元へそっと置いていく

クリスマスを祝う宴の席で突然思いついた
そして仲間を引き連れて夜空へと飛び出した
今宵はクリスマス
煌びやかなイルミネーションを背に百鬼夜行というのも乙だが
しかし今年は何故かサンタになってみようと思った
魑魅魍魎の主がサンタなど、古参の貸元やじじい達が聞いたらきっと目をひん剥いて驚くに違いない
最初はちょっとした悪戯心からだった
しかし空を駆けていくうちに
ふと、こういうのもいいんじゃないかと思った
ただ畏を振りまくだけの百鬼夜行が、たまには善を尽くすのも

人があっての百鬼夜行
人が恐れてこその百鬼夜行

人がいてこそ自分達は成り立つ

だから
この日
今宵だけは

「善い妖怪になったっていいんじゃねぇか?なあ、つらら」

若者はそう言うと、背にしがみ付く可愛い側近頭にニヤリと一つ悪戯小僧の様な笑みを向けた
「もう、酔ってますねリクオ様」
そんな主を苦笑も露わに見上げながら少女もまたまんざらでもなく、こくりと頷くのだった
その返事に気を良くし、若者はまた次の家へとひらりと飛び移る
今日はクリスマス
日頃の感謝を込めて
人々へ……

Merry Christmas



その数刻後
上機嫌で義兄弟の屋敷にプレゼントを置きに来た若者は
「何やってんだおめぇわぁぁぁぁ!!」
と妖怪任侠を地でいく義兄弟にこっぴどく叱られたそうな



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