闇夜を照らす月明かりの中、ふわりと人影が中庭へ降り立った
「ありがとうな、今夜はもう寝ていいぜ」
己をここまで乗せてきてくれた大蛇にリクオは優しく微笑むと頭を優しく撫でてやる
大蛇はこくりと頷くと、そのままどこかへ飛んでいった
部屋へと続く襖を開けたリクオは、その場でしばし固まった


なんだ?


部屋の中央――布団が敷かれているそこに何かが蹲っていた
月明かりを頼りによく見るとそれは蹲っているのではなく丸まっていて――
「何やってんだ?」
目の前の物体にリクオは呆れた声で呟いた
布団の上を占領しているのはよく知る人物で
こっそり出かけた主を心配してここで待っていたのかその人物はスヤスヤと気持ち良さそうに寝息を立てていた
白い布に包まれた体を丸め、藍染めの絹糸のような艶やかな髪がその体や布団の上に散る様は雪原に流れる川を思い浮かばせる
月明かりに照らされてキラキラと輝くその姿は見ていて綺麗だと思った
しばし見蕩れていたリクオだったが、ふと我に返ると布団の横に腰を下ろした
子猫のように丸くなって眠る側近をこのままにしておくのは色々と問題がある
少しばかり残念な気もするが、まあ今後の事を考えると起こすのが妥当だなと思い肩を揺すって声をかけた
「おい、つらら起きろ」
何度も揺り動かし声をかけるが、主の声にも一向に起きる気配が無い
どうしたものかと溜息を吐いたリクオの腰にひんやりとしたものが絡み付いてきた
見ると寝ていたはずのつららがリクオの腰に縋りつくように抱きついているではないか
起きたのかと一瞬思ったのだが、つららの瞼はしっかりと閉じられており、すーすーと寝息まで聞こえてきている



寝ぼけてんのか?


一瞬起こそうと思ったのだが、悪戯心が沸いてきたのでやめた
リクオはつららを起こさないようにそっと抱き上げると、そのまま布団の上に腰を下ろし膝の上に乗せた
徐に顎に手を当て上を向かせると顔を近づけていく
鼻先が触れる程の距離に近づいた所で動きを止めるとそっと囁いた
「おい、起きねえとキスしちまうぞ」
熱い吐息を混ぜながら艶っぽく言ってみるが、まだ眠りの深いつららには聴こえないらしい
リクオはにやりと笑うとつららの髪にキスを落とした


おでこに
「おい」


瞼に
「早くしねえと」


鼻先に
「本当に」


頬に
「しちまうぞ」


唇に








ちゅ








「ちっ・・・起きねぇ」
一向に起きる気配の無いつららに舌打ちする
主にここまでさせた側近は腕の中で先程よりも幸せそうに眠っていた
これ以上はさすがにまずいかと名残惜しそうに顔を離す
月明かりに照らされたつららの姿はどこか儚げでいつもの彼女とは違う魅力があった
このまま離れてしまうのもなんだか勿体無い気がした
というよりも離したくない
それならばと、このまま幸せそうに眠る側近を抱いたまま眠りに就くのも一興かと、つららと共に布団に潜り込む
他の連中への言い訳など明日考えればよい
それよりも


明日の朝、つららが起きた時の顔が見ものだな


隣で眠る側近の顔を見下ろしながらリクオは喉の奥でくくっと笑うと、愛しい側近を抱き枕にして眠りに就いた


『とある夜の小さな出来事@』



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