ぱたぱたぱた
早朝、廊下を軽快に走り抜けるつららの姿があった
向かう先はリクオの部屋
恒例となった朝のお勤めに、つららは元気良く部屋の襖を開いた
射すような朝日が眩しい初夏の朝
じっとしていてもしっとりと汗を纏ってしまうこの季節に事件は起こった


「リクオ様〜朝です!学校です!起きてくださ〜い」
天敵である夏の日差しにも負けず、つららはリクオの部屋へ入ると元気良く主に向かって声をかけた
「んん〜」
布団の中の住人は小さく呻きながらもぞもぞと寝返りを打っている
どうやらまだ起きたくない様子だ
「あと10分」
うわ言のように言うとそれきり動かなくなってしまった
「そんな事言って、昨夜もお出かけになっていたからですよ、起きて下さい」
つららも負けじと布団ごと揺すって起こしにかかった


リクオは参っていた
ここ毎晩続く熱帯夜になかなか寝付けず
昨夜は良太猫の所へ涼を求めて出掛けていた
しかし、それがいけなかった
ついつい長居してしまい帰ったのは真夜中だった
しかも東京の夜は暑い
結局明け方までなかなか寝付けず先程やっと睡魔が襲ってきた所であった
しかも、つららが開けた襖から朝日が当たってせっかく寝たというのに暑い
とにかく暑い
暑いのだ
まどろむ意識の中で暑い暑いと涼しい場所を求めて手を彷徨わせた
ふと冷たい何かが手に当たった
これ幸いとむんずと掴み力任せに引き寄せる
「きゃっ」
同時に聴こえる微かな悲鳴
どさり
と、リクオの布団の中に柔らかくて冷たい塊が入ってきた
ひんやりと冷たいそれにリクオは擦り寄る様にしがみ付くと
腕と足を絡めて動けないようにした
「ちょっ、リクオ様離して下さい」
腕の中でバタバタ暴れる物体に「うるさいなぁ」と内心舌打ちしながら薄っすらと目を開けて見る
開けた視界には顔を真っ赤にさせて腕の中で必死に抜け出そうとするつららの姿があった
寝ぼけたままの頭でぼんやりとつららの姿を見ていたリクオは


ま、いっか


と、面倒そうに結論付けるとそのまま抱きしめる腕の力を増し、触り心地の良いその体を動けないように拘束してしまった
「!!!!!」
つららはいよいよもって身動きが取れなくなり、視界一杯に迫るリクオの寝顔と、まだ成熟しきれていない筈のその体から香る男の匂いにくらくらと眩暈を起こす
軽くパニックに陥ったつららは黄金色の螺旋の瞳をさらにぐるぐるさせながら小さく悲鳴をあげた
「ひゃあぁぁ、リクオ様、リクオ様」
ぱしぱしと微かに動く手の平でリクオの胸を叩くが、結局リクオの腕の力が強くなるばかりで抜け出すことができなかった
しかも「うるさい」と、恐慌状態のつららに更に追い討ちをかけるが如くリクオは耳元で呟くと


ちゅうぅぅぅぅ


つららの唇に吸い付き声を出せなくしてしまった
「ん〜、ん〜」
その後、リクオを起こしに行ったきり戻って来ないつららに気づき、首無や毛倡妓が探しに来るまでつららはこの束縛から逃れることは出来なかったとか
そして暫くの間、帰りが遅くなるリクオを警戒するつららの姿があったとかなかったとか


寝不足にはご用心


『とある朝の小さな出来事@』





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