暫くすると、小さな温もりからスヤスヤと規則正しい寝息が聞こえてきた


ぱちり


すると女の大きな瞳が開いた
「寝たのか?」
女が起きたのを見計らったかのように襖を隔てた外から声が聞こえてくる
「ええ、もうお休みになられたわ、ありがとう黒羽丸もう休んでいいわよ」
つららは外に控えていた護衛にそう告げると、程なくしてばさりと羽音が聞こえてきた
つららはほおっと息を吐くと、胸元に顔を埋めて眠る幼子をそっと見下ろす
スヤスヤと眠る幼子の頬には涙の跡があり、目尻に溜まった雫が今にも零れ落ちそうだった
そっとその涙を指先で掬い取るとそれは一瞬にして氷の欠片となった
「どんな怖い夢を見ていたのかしら?」
指先に乗った涙の欠片を自身の目の前まで持ってくると小さく呟き幼子を愛おしそうに見つめた
幼子を見つめるその黄金色の螺旋の瞳には慈愛と不安が入り混じっていた


出来る事ならこの子にはいつも笑っていて欲しい


そう切に思う
この小さな幼子が笑ってくれるなら自分はどんな事でもする


例えば、今のように怖い夢を見て眠れなければ喜んで身を寄り添えましょう
例えば、敵に狙われようものならこの身を盾にしてお守りしましょう
例えば、悩み往くべき道に迷ったならばそっと背中を押してさしあげましょう


何が起きても何があろうともあなたに従いお守りいたしましょう
だから


怖い夢を見た時は貴方のお側にいさせてください




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