またまた奴良家に一大事が起こった



ぼふん



なんだか聞いた事のあるようなその音に、屋敷中の者たちがぴしりと固まった

「え?」

「おい、今の音って・・・。」

嫌な予感にすぐに振り向く事ができない

「もしかして……」

「ああ」

ひそひそと囁き合う下僕達

恐る恐る振り返ると

そこには――



若〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!



幼児姿になったリクオがいた



そこへタイミング良くばたばたと廊下をかけてくる足音

バンッと派手な音をたてて開いた襖には

血相を変えた鴆がいた

「ぜ、鴆様!?」

いきなりな登場をしてきた薬師にその場で固まっていた下僕達はさらに驚く

そして

ずかずかと幼児姿になったリクオの元へ鴆が近づいて行くのを固唾を飲んで見守った



「いや〜悪い悪い、この前リクオに頼まれた『惚れ薬』と間違えてまた若返りの薬渡しちまった〜〜」



たはは、と頭に手を置きながら申し訳なさそうに謝罪してきた鴆の表情はどこか嘘くさい

ぽかんと鴆のやり取りを見ていた下僕達を置き去りに、鴆はくるりとリクオの方へ向き直ると



「これは俺の責任だ〜俺がなんとか再教育……じゃなくて、元に戻さないとな〜〜」



などと、大根役者も真っ青の棒読みでそう言ってのけた

そしてリクオを軽々と抱き上げるとそそくさと部屋を退出しようとする

しかし、そんな薬師の暴挙を止める者たちがいた



「ちょ〜っとお待ちあそばせ鴆様」

「お待ちください鴆様!」

ババーーンと効果音が付いて来そうな勢いで鴆の前に立ちはだかったのは、他でもないあの側近頭と元花魁の二人であった

「「リクオ様を、ど・こ・へ・連れて行かれるつもりですか?」」

見事にハモッた二人の声に、鴆は一瞬びくりと震える

そしてに〜っこりと微笑みながらぐいぐいと近づいてくる女二人に鴆はしどろもどろになってしまった

「いや、コレにはワケが〜〜〜〜」

「へぇ〜どんなワケがおありなんですか?」

「リクオ様は私達がお世話いたします」

どんと胸を張って言って来た二人組みに鴆はここで負けてたまるかと吠えた

「うるせぇっ!お前らに任せておいたらリクオはどんどん妖怪離れしてっちまう!ここは俺が一から再教育してリクオをだな……」

最後の方はぼそぼそと小さくなっていってしまった

なぜなら勇ましく抗議しはじめた鴆に、側近二人組みがゴゴゴゴと畏を膨らませて凄んできたからであった

その姿、鬼女の如し!!



さすがの鴆もその有無を言わせぬ気迫に小さくなっていった



「誰が、誰を妖怪離れさせたですって!?」



「あ、いや……そのぉ〜」



「リクオ様は立派に総大将として成長なされてるわよ」



「で、でも……」



「今のどこが不満だって言うの!?リクオ様は人も妖も共に暮らせる世界を作りなさったわ」



「う……」



「「どうなの!?」」



左右に挟まれて凄まれた鴆は結局何も言えなくなってしまった

そして闘いに敗れた薬膳堂の主はがっくりと肩を落とし白旗を揚げたのだった



「ふふふ、リクオ様のお世話は私達がしっかりとやりますから、鴆様は早く解毒剤を作ってくださいませ」

ちっちゃくなったリクオを抱き上げ、至福の表情で見送るつららに鴆は力なく返事をし屋敷を出ようとした

その時――

「あ、鴆様この人の分も忘れないでくださいよ」

「あ?」

言われて振り返った鴆は絶句した

何故なら

元花魁の毛倡妓の腕の中には

リクオと同じく幼児になった



首無がいた



――恋する乙女達の至福のひと時






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