そしてその帰り道
「あっはは〜、カナ面白かったね〜」
「もう、あんまりからかっちゃだめだよ巻」
豪快に笑う親友を眉根を下げながらやんわりと鳥居が窘める
巻と鳥居は夕日の沈みかけた薄暗い道のりを歩いていた
今日のカナは傑作だった
時々幼馴染の不審な行動を見ては眉を吊り上げて怒っているカナが実は気になっていた
まあそれよりも何よりも最も気になるのは今回の話に上がった二人なのだが
二人の事は巻も不思議でならなかった
部活の時にも話したが二人は一体どういう関係なのか
「まあ、遠い親戚か親同士が仲が良いって言う線が有効かな〜」
「もう、まだ気にしてるの?二人の事」
突然ぶつぶつと独り言を呟きだした巻に鳥居がジト目で顔を近づけてきていた
「え?うん、だって本当に怪しいじゃんあの二人」
「まあそう言われればそうだけど……」
巻の言葉に鳥居も段々と気になり始めてきた
一体二人はどういう関係なのか?
気になり始めたらきりが無い
疑問はまた疑問を呼び
疑いは更なる疑いを生み出す
考えれば考えるほど奴良リクオと及川つららの関係は不思議だった
「そもそも奴良に”様”付ける意味がわかんないよね?」
「あ、それ私も思った!なんなんだろうねあれ?」
「もしかして……う〜ん考えられないな〜」
「え?なに?なに?」
あれこれと話をしていると、何かを思いついたのか巻が歯切れ悪そうに言葉を濁してきた
そんな巻に鳥居は興味津々と言った顔で巻の顔を覗きこんでくる
ふと、その時……
丁度良いタイミングで噂話の人物が現れたのだった
「巻!」
「鳥居!!」
二人はこれ幸いと、お互い顔を見合わせながら頷き合うと、こそこそと二人に見つからないように物陰に隠れた
リクオとつらら
二人は家に帰った後なのであろう、制服ではなく私服姿で街中を歩いていた
その後をこそこそと付いていく巻と鳥居
リクオとつららは背後から同級生が付いて来ている事に気づいていないらしい
いつもの様に肩を並べて手を繋ぎながら目的の場所へと向かっていた
「やっぱりあの二人……」
「うっそ、マジ?」
仲良く手を繋いで歩く二人に巻と鳥居は目をまん丸にしながら驚いていた
あの繋ぎ方は俗に言う――
『恋人繋ぎ』
指と指とを絡ませ合いぴったりと握り締めあうあの手の形はまさしくそれだ
巻と鳥居は意外なものを見たと顔を見合わせあった
そしてリクオとつららはある場所で立ち止まると、慣れた動作で中へ入っていった
そこは――
主婦達の憩いの場『スーパーマーケット』だった
「へ?」
「いや、ちょっと……これは」
巻と鳥居は意外な場所に目を点にさせていた
「こ、恋人繋ぎしながらスーパーって……」
「ナニコノテンカイ」
既に意外を通り越して驚愕する二人に更なる追い討ちがかけられた
「ぶっ!」
「な、なにコレ、なにアレ〜〜!?」
絶叫する二人の視線の先には――
仲良くカートを押しながら「今晩のおかずは何?」と聞いているリクオの姿があった
「今晩のおかずって……オカズッて〜〜、えぇ!?」
「や、やっぱりあの二人……」
震える声でまた顔を見合わせあう
「これは」
「もう」
最後まで見届けるっきゃない!!
ここまで来たら後には引けないと巻と鳥居は覚悟を決めた
すっかり夜の蚊帳が降りた夜道を親友同士は無言で帰る
興奮冷めやらないその顔はほんのりと紅潮していた
「あの二人……」
「うん」
二人の会話はそこまでだった
しかし胸中で渦巻く絶叫は溢れんばかりで
ま、まさか、まさか私が言った冗談が本当だったなんて〜〜〜
す、凄いもの見ちゃった……
まさか……まさか二人が
「「同棲していたなんて〜〜〜〜」」
もう我慢の限界
奴良家から離れるまで声を上げないように必死に堪えていた二人はとうとう絶叫してしまった
知ってしまった秘密
これは大スクープだ
でも……
「巻」
「鳥居」
秘密の共有者達はお互い顔を見合わせあう
そしてそっと心に誓うのだった
この秘密は秘密のままにしておこう、と……
それは
鈍感なもう一人の幼馴染の為に
そして
告白する前から失恋確定の憐れな日本代表サッカー部のエースの為に
巻と鳥居
二人はお互い頷き合うと、既に暗くなった夜道を急いで家に向かって帰るのであった
了
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