「それではリクオ様、お達者で!」
「つ、つらら〜〜〜」
そんな側近達のお節介の企み・・・・もとい優しさのお陰で、つららはリクオの制止の声を振り切り一目散へと朧車に乗り込んであっという間に遠くの彼方へ飛んで行ってしまった
門の所まで追いかけて行ったリクオはというと――
ポカンと、そりゃもうポカンと間抜け過ぎる哀れな表情で止めようと伸ばした腕をそのままに、放心していた
「ちとやり過ぎたか?」
「いやいやいや、そろそろはっきりして貰わないと」
「うむ、拙者たちも気が気ではないからな」
「でもちょっと可哀相じゃないリクオ様」
ボソボソボソボソ
静かに見守ろうと決めた側近達は、その哀れな主の姿にいささか同情をしていた
ここ最近の雪女の態度は誰から見ても明白であった
どこからどう見ても
恋煩い
しかもかなり重症な
相手は紛れもなく我らが主
「ていうか、京都であんだけはっきり態度に出てたのになぁ」
「リクオ様もやっと男になったと喜んでいたのに」
「ああ」
「まさかまだだったとは・・・・」
「でも雪女も鈍感過ぎやしないか?」
「ん〜でも雪女だし」
「だよな・・・・」
「ここはリクオ様に一肌脱いでもらおう」
「そうね」
「そうだわ」
リクオ直属の側近達はキランとお互い瞳を輝かせると、直ぐ横で放心状態のリクオにそっと向き直った
「リクオ様いいのですか?」
固まったリクオの肩を側近代表として首無が叩く
すると今の今まで魂の抜けかけていたリクオが我に返った
「このままで良いのですか?」
「首無・・・・」
「修行と言っておりましたけど、まさか一ヶ月やそこらで帰ってこれるとは思っていませんよね?」
「え・・・・」
「あの雪女のこと、実家でどんなドジをやらかすか・・・・下手をすれば一年や二年は帰ってこられないんじゃないですかねぇ」
首無の言葉に毛倡妓が妖艶な笑みを張り付かせて応戦した
「そ、そんな・・・・」
「止めるなら今しか無いですぞ?」
そこへ黒田坊も参戦する
「そうですぞ、雪女はああ見えて頑固ですからな」
「黒に青・・・・」
「ん〜、一応朧車用意しといたけど」
乗る?と暢気な声で河童が指差した先には奴良組一の速さを誇る本家御用達の朧車が用意してあった
「みんな・・・・」
「行ってきなさいリクオ様」
「急いでください」
「うんありがとうみんな」
リクオは側近達にこれ以上ないほどの笑顔を向けると朧車に飛び乗った
あっという間に空の彼方に飛んで行く朧車を見上げながら側近達はこう呟いていた
「まったく世話が焼ける」
その後
実家に戻ったつららをリクオは二週間もかけて説得し宥め、めでたく本家に連れて帰ってきた
そしてその一部始終を遠巻きに眺めていた本家の妖怪達はみな一様に首を傾げていた
二週間もの間リクオはどうやってつららを説得したのか?
と・・・・
しかし帰ってきたつららを見た一部の側近達は納得する
本家に帰ってきた時のつららの顔がほんのり赤かったことが全てを物語っていたから
そして
お節介な心優しい側近達は
にやり
全てを悟ってほくそ笑んでいたとか
了
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