「ねぇ、雪女」

リクオはそう言いながら、紅葉の様な可愛らしい手で隣に立つつららの手をきゅっと握り締めた

「はい、なんでしょう?」

その温かな感触に口元を綻ばせながら、つららは返事をする

幼いリクオはまだつららの腰までしか伸長が無いため、何かを伝えようとすると必然的に背伸びの状態になってしまう

つららはしゃがみ込んでリクオと同じ目線になると「どうしました?」と尋ねた

「あのね、せっくすってなに?」

たどたどしい口調で聞いてきた言葉はあまりにも衝撃的な内容だった

「はい?」

つららの時が一瞬止まった

たっぷり一分もの間を置いて復活したつららは次の瞬間大絶叫していた

「わ、若。ど、どこでそんなお言葉を知ったのですかぁぁぁぁ〜!?」

「え・・・とぉ、黒と青が話してた」

幼いリクオはそう言うと、にぱぁと天使の笑顔を向けてきた

く・・・こんな幼く天使のような心を持ったリクオ様の目の前でなんという話を!

破廉恥エロ田坊どもめ!と内心で毒を吐きつつも、つららは困っていた

と・・・とうとう若様にもこの時が来てしまったのね・・・

いつかは来るだろうと思っていた子供の疑問上位ランクに入るこの話題

そのいつかの時の為に上手く答えられるようにと、幾度と無く練習を積み重ねてきた成果が今ここで試されるのだ

つららは小さく深呼吸をすると

いざリクオに向き直った

「リクオ様、それはお互いを好きになった男女がする儀式の様なものです」

「ふ〜ん」

つららのもっともな言葉にリクオは感心したように相槌を打った

「じゃあ、お互い好きになったらできるの?」

「はい、でも好きになったらいつでもできると言う訳ではありません」

「そうなの?じゃあいつ?」

「それは、結婚を約束した相手もしくは結婚していなければできないのですよ」

「そうなんだ・・・」

リクオはそう一言言うと黙り込んでしまった

よしよし

どうやら納得してくれたらしいリクオの様子に、つららはほっと胸を撫で下ろした

「じゃあ、雪女は僕の事好き?」

突然リクオが顔を上げてつららに聞いてきた

「え?」

突然話題を変えられて面食らったつららは思わず素っ頓狂な声をあげてしまった

「だ〜か〜ら〜、僕のこと好き?」

リクオはそう言うとはやく〜と地団駄を踏んで催促する

つららはリクオが突然聞いてきた言葉に内心首を傾げたが、特別隠す事でもないと思い素直に答えた

「はい、リクオ様の事は好きです。ずっとお慕い申し上げておりますよ」

そう言いながらにっこりと笑顔を向けてあげると、リクオもまたにぱっと先程の笑顔を向けて返してきた

「ほんと?僕も、僕も雪女の事大好きだよ」

大好きだよ

先程のリクオの言葉が何度もリピートしてくる

目をキラキラさせて言うリクオの姿に、一瞬つららは昏倒しそうになった

なんとか踏み止まったのだが、尚もキラキラと陽光の様に眩しい笑顔を向けてくるリクオの顔が直視できずつららは薄っすらと頬を染めながら目を逸らした





う、嬉しい!大好きだなんて・・・ああなんて可愛らしい笑顔なのかしら、リクオ様の下僕で良かった





主に無条件に好意を寄せられる事は下僕として最高の幸せです、とつららは心の中で至福に酔いしれていた

していたのだが

リクオの放った言葉に今度こそつららは卒倒しそうになってしまった

「じゃあ、つららとせっくすできるね」

「は・・・い?」

にこにこにこにこ

天使のような無邪気な笑顔でリクオはつららを見つめている

「つらら、大人になったらせっくすしようね♪」

「わ、若〜〜〜〜!」

衝撃的な言葉を発したリクオに、つららは真っ赤な顔で大絶叫するのであった



その後、何度言っても頑なに「つららとせっくすするんだ〜」と言って聞かないリクオを宥めるつららの姿が奴良邸の中庭で暫くの間見られたとか




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