※こちらの作品は「青年の大人の企み 其の一」の続きになります。





さて、どうしよう・・・・



つららは目の前の状況に一人頭を悩ませていた

その視線の先には



花畑



もとい

部屋一杯に置かれた花があった

数刻前、リクオや三羽鴉たちによって運び込まれた婚約祝いの品である

殆どはリクオからの贈り物なのだが、その中には本家の仲間達からの贈り物も混ざっていた

皆それぞれ自分とリクオとの婚約を祝福して贈ってくれたものである

みんなの思いの込められたそのありがた〜い贈り物を・・・・



無碍にはできなかった



しかしこのままでは寝られない

廊下に出しておくのも気が引ける

布団を敷く隙間もないほど部屋中に溢れ返る花達を見てつららは溜息を吐いた

かといってこのままこの花と寝たら、きっと朝には自分は冷たくなっている事であろう

雪女なのだから当たり前なのだが

いやこの場合そう意味ではなくて・・・・

まあ妖怪であるこの身なら多少の事は耐えられる

がしかし、夜中に酸欠になるなんて事はできれば避けたかった

むかし部屋一杯の花の中で寝た人間が、翌朝帰らぬ人となっていた事件があったなと、ちらと思い出しながらつららはどうしたものかと溜息を吐いていた

すると



見計らったかのようにこの事態を招いた張本人が、どこからともなく現れて来た



花畑の張本人――リクオは先程の緊急会議同様、銀の長髪をたなびかせた夜の姿でつららの前に現れると

「どうしたつらら、そんな所にぼーっと突っ立って?」

と、わざとらしく首を傾げながら聞いてきた

「リクオ様」

つららはそんなリクオに恨めしそうな視線を寄越す



誰のせいだと思ってるんですか?



その視線はそう語っているように見えた

しかし、先程一癖も二癖もある貸元達を丸め込んだリクオにしてみれば、目の前の側近の視線など蚊の鳴くようなもの

リクオはさも今気づきましたとばかりに、こうのたまってきた

「ああ、そう言えば部屋、花だらけだったな?」

大丈夫か?などと白々しく聞いてくるリクオに、つららは更に恨めしそうな視線を向けながらも真面目に答える

「それが・・・この状態では寝たくても寝られなくて・・・・」

どうしましょう?と縋るような視線を向けてくるつららに



にやり



リクオは気づかれないように口角を上げるとこう答えた

「寝れないんなら、良い所があるぜ」

「本当ですか!?」

リクオの言葉につららは表情を一変、嬉しそうな顔で主を見上げてきた

対するリクオもつららのその嬉しそうな顔に満足気に目を細め、そしてこう続けた



「ああ、俺の部屋だけどな」



「へ?え?ちょっリクオ様!?」

主の言葉に驚き目を瞠るつららを、リクオはひょいと抱き上げると

お姫様よろしく抱きかかえながら自室へと続く方角へくるりと踵を返した

「あ、あの・・・・」

「こうなった責任は取らなきゃな!」

そう言うや否や、つららを抱えているのをものともせずにスタスタと軽い足取りで歩き始める

主の楽しげな声に、つららはいよいよ以って青褪め身を縮こまらせながら胸中で叫んだ



やられた!!



夜はまだまだこれから







※裏バージョン有


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