「キスって何?」





あの質問から数日が経ったある日

つららはリクオに呼び出され庭に来ていた

「リクオ様どこ行ったのかしら?」

キョロキョロと辺りを見回すがどこにも見当たらない

これはもしや・・・

つららの脳裏に不安が過ぎった

総大将の孫である彼は相当な悪戯好きである

今回もまた何かを企てて自分をここへ呼んだのかもしれない





さて、今回はどんな悪戯を仕掛けてくるのやら・・・





今回もまたリクオの悪戯だと思ったつららは小さく溜息を吐いた

取り敢えずリクオに呼び出されたのだから本人を探さなければならない

つららは毎度の事ながらも溜息を零しながら辺りを慎重に見て回った





「雪女来てくれたんだ」





庭にある垣根を掻き分けていると背後から声が聞こえてきた

振り返ると、大きな瞳をキラキラさせたリクオがつららを見上げている

「若、探しましたよもう」

散々探し回ったつららは少々拗ねた風を装ってリクオに告げる

一方リクオは――

「待たせてごめんね」

素直に謝ると、ぎゅうっとつららに抱きついてきた





はうっ!可愛い・・・・





いつも悪戯ばかりで小生意気なリクオが時折見せる素直な一面につららは頬を染めながら心の中で叫んだ

このギャップの可愛さは否めない

はにゃ〜んと顔を綻ばせて「いいんですよ若〜」と頭を撫でながら言うと、リクオはつららを見上げながらにぱっと笑った

「うん、それでね雪女」

「はい、何でしょう?」

リクオはつららを呼ぶとおいでおいでと手招きした

つららは首を傾げながらしゃがみ込みリクオと同じ目線になる

リクオは「あのね」と、もじもじと恥ずかしそうに言いながら

「つららは僕のこと好き?」

と聞いてきた。

つららは頬が緩むのを感じながら

「はい、リクオ様の事が大好きですよ」

と溢れんばかりの愛情を込めて答えた

「ほんと?」

嬉しそうに答えるつららを見てリクオも嬉しそうに聞き返してくる

「はい、もちろんです」

にっこりと優しい笑顔を称えてはっきりと頷くと、リクオはほっとした様に息を吐いた

「若?」

「うん、僕も雪女の事だ〜い好き♪」





ちゅう





リクオは満面の笑顔でそう言うと、つららの頬に紅葉のような小さな手を添えながらキスを贈った

「わ、若!」

途端真っ赤になるつらら

リクオは、「首無が僕はまだ子供だからこっちだって」と少々不満げに呟いている

「でも、大人になったらちゃんとするからね」

リクオは笑顔のままそう言うと、くるりと踵を返して走り出してしまった

若、と呼び止めるつららの声に振り向くと「約束だよ〜」と手を振りながら走り去っていってしまった

小さな嵐のように突然現れて突然消えていってしまった主を見つめながら、つららは今頃になって顔が赤くなってくるのを感じた

「若・・・突然過ぎます」

まだ小さな熱の残る頬に手を当てながらつららはぽつりと呟いた









庭での出来事から2日前のこと

「ねえ首無」

「どうしましたか若?」

「キスってどうやるの?」

「は、はい?若そのような事をどこで聞いてきたのですか?」

「どこって首無しがこの前言ってたよ」

「わ、私がですか?」

「うん、そこの廊下の角で毛倡妓と話してたでしょ?」

「ぶふっ・・・わ、若、その・・・他には誰か居ましたか?」

「ううん居なかったよ」

「そ、そうですか・・・(ホッ)」

「ねえ、だからどうやるの?」

「いや・・・それはその・・・」

「教えてくれないなら毛倡妓に聞いてくる」

「そそそそそれはダメです!わかりましたお教えします」

「ほんと♪」

「はい・・・オホン、若キスというのは唇と唇を合わせることです」

「・・・・それだけ?」

「それだけと言われましても・・・・ただし、これは大人になってからです。若はまだ子供ですので、おでこや頬にするのがいいと思いますよ」

「大人じゃなきゃダメなの?」

「え、ええまあ年齢制限といいますか、今はまだ口はやめておいた方がいいでしょう、嫌がられる場合もありますし」

「ふ〜ん、じゃあ首無もだね」

「わ、私ですか?」

「うん、だってこの前毛倡妓にがられてたでしょう?」

「ぐはっ!べ、別に嫌がられてたわけでは・・・それよりも若、誰とするんです・・・その、キスを?」

「ん〜・・・・内緒!」

「え、若、若待ってください!この話毛倡妓には内緒ですよ〜〜〜!!」

嵐のように走り去っていった主に首無はやれやれと嘆息した

おでこや頬は友愛の証

唇は愛情の証

はてさて、我らが若き主はいったい誰にその想いを伝えるのやら

首無は口元に笑みを作ると空を見上げた

願わくば小さな我らが主の恋が叶いますようにと祈りを込めながら








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