あと少し

あと少し

その日リクオは朝からそわそわと落ち着きが無かった

何かを待ち望んでいるかのように時折思い出したように、にやけたと思ったらはっと我に返り周囲を気にする

そんな事を何度も繰り返していた

護衛としてリクオを見守っていたつららと青田坊は、そんなリクオに首を傾げていた

「今日のリクオ様何だか変です」

「ああ、気もそぞろってところか?」

屋上から教室に居るリクオを覗きながら側近達はひそひそと話し合っていた





時は移って昼休み――

「リクオ様、今日はどうなさったんですか?」

手製の弁当をリクオに手渡しながら、先程のリクオの行動を気にしていたつららは意を決して本人に尋ねてみた

「何が?」

当の本人は全く気づいていないようで氷付けの弁当をボリボリと噛み砕きながら聞き返してくる

「いえ、今日は何だか落ち着きが無いというか・・・何か悩みでもあるのかと」

つららはリクオの返答にいささか拍子抜けをしてしまったが、リクオの事だ側近達に心配をかけまいと演技しているのかも知れない

そう思ったつららは更に問い返してみた





悩みや心配事があるならもっと頼ってくれればいいのに





ちくりと胸が痛む

そんなつららの気持ちを知らないリクオは年相応のあどけない素振りで首を傾げていた

「悩み?う〜ん特に無いなぁ」

あ、でも、とリクオは何かを思い出し弾かれるように顔を上げると

「明日は僕の誕生日だね」

そう言ってにっこりと笑ったのだった

思わせぶりなリクオの様子に返ってきた言葉は意外な言葉で

「え、ええそうです・・・ね」

何を言われるのかと身構えていたつららと青田坊は拍子抜けしてしまった

しかし、リクオが自身の誕生日を覚えていた事に側近達は嬉しくなった

いつも周りの事ばかりに気を遣い自分の事は後回しの彼

自分の誕生日の事など毎年忘れているのが常で、こうやって覚えているのは珍しい事なのだ

その彼が今年の誕生日はきちんと覚えてくれていた、それだけでも嬉しいのに、しかも

「うん、楽しみだね」

と言って、にっこりと嬉しそうに微笑んでいるではないか!

それだけで嬉しかった

「リクオ様がご自分のお誕生日を楽しみにしていてくれてたなんて意外です!今年は盛大にお祝いしましょうね」

喜びも露につららは顔の前で手を合わせながらはしゃいだ

「うんそうだね、今年は僕にとっても特別な日だから」

「おお、そうでしたそうでした!明日は何と言ってもリクオ様が13歳になられる日、これでやっと若も晴れて大人の仲間入りですな!」

がははは、と嬉しそうに青田坊は豪快に笑った

「組の者が皆待ちに待った日ですからね、盛大にお祝いしましょう♪」

明日はご馳走ですよ〜と、つららも嬉しそうだ

和気藹々とはしゃぐ側近を見つめながらリクオも呟いていた





「本当に楽しみだね」


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