その時、7年間焦らしてくれたつららを今夜どう料理してやろうかと楽しそうに思案するリクオの視界に、愛しい彼女の姿が写った
きっとつららも今夜の事を思って照れているに違いない
そう思ったリクオはつららの様子を伺い、次に絶句した
え・・・何、今の表情?
てっきり恥ずかしそうにしているだろうと思っていたつららはどんよりと暗い顔をしていた
まるで身内に不幸があったかのような顔つきだ
顔色は青白く頬は引き攣り眉間には深い皺が寄って苦悶の表情を浮かべていた
これは何かあったのかと心配になったリクオは、つららの後を急いで追いかけていった
「つらら」
ふらふらと廊下を歩くつららの肩を掴むと声をかけた
リクオの声につららはびくりと肩を震わせると驚いた様に振り向いた
その顔には驚きと不安が入り混じり瞳は揺れている
一瞬でつららの感情を読み取ったリクオは「ああそうか」と安堵する
身内に不幸があったわけでもなく、悩みがあるわけでもない
これは混乱しているだけだ
理解したリクオは思わず笑いそうになってしまったがなんとか堪える
挙動不審にキョトキョトと視線を彷徨わすつららを安心させるため、リクオは細心の注意を払って優しく話しかけた
「つらら、大丈夫?」
「え?」
「何だか疲れてるみたいだったから」
「い、いえ・・・そんなことは・・・」
つららはそう言いながら顔を赤くして俯いてしまった
あ、照れてる、とつららの感情が手に取るようにわかるリクオは内心苦笑しながら更に優しく話しかけた
「顔色もあまり良くないね、今日はもう休んでいいよ、明日も学校があるし」
「そ、そんな・・・・これくらい平気です!」
リクオの言葉につららは弾かれたように上を向くと首を横に振る
リクオは困ったように眉根を下げるとトドメの一言を放った
「でも、つららが病気になったら嫌だな・・・一緒に学校行けなくなっちゃうしね」
だからお願い、と甘えるように言えばつららは渋々頷いてくれた
しゅんと項垂れながらとぼとぼと自室へと向かうつららに付き添い、つららの部屋の前まで来るとつららはわかり易いくらいビクンと反応した
不安そうにリクオの顔を見上げる
その行動にまたしても笑いそうになってしまったがなんとか堪え、「じゃあおやすみ」とそっと額にキスするとあっけなく離れてやった
「あ・・・」
「ん、なに?」
「い、いいえ何でもないです」
頬を染めながら言うつららの態度に、何でもないとは思えないなぁなどと内心で苦笑しながらリクオは優しく微笑むと、その場を後にした
リクオが去っていく後姿をつららが名残惜しそうに見つめてくるのが背中を通してひしひしと伝わってくる
よし、この手でいこう
リクオは悪戯を思いついた子供のような顔で怪しく微笑むと、何事も無かったように宴会会場へと戻っていった
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