いつものように屋敷の中で洗濯物を畳んでいると、バタバタと小さな足音が聞こえてきた

「つらら〜いる?」

スパーンと元気良く声を張り上げ襖を開けてきたのは主であるリクオだった

「あ、若お帰りなさいませ」

つららは洗濯物を畳んでいた手を止めると、リクオの方へ振り返り満面の笑顔で彼を迎える

にこやかに笑うつららを見たリクオは、嬉しそうにテテテテと部屋の中へと入ってきた

幼稚園から帰って来てすぐつららの元へ来たのか、リクオの姿は園児服のままだ

「どうかしましたか?」

ちょこんと膝の上へ座るリクオに、嬉しそうに目尻を下げながらつららが尋ねると

「あのね、あのね」

と、リクオは頬を紅潮させ好奇心旺盛な瞳をキラキラさせながらつららに言ってきた

「ユウ君が今度赤ちゃん産むんだって!」
幼子特有の呂律の回らない口調で意味不明な言葉を並べるリクオに、つららは首を傾げながら悩んだ

「え〜・・・と」

つららはリクオの言葉を整理し、一番近い言葉を選ぶとリクオへと確認するように言った

「ユウ君のお母さんが今度赤ちゃんを産むんですね?」

「うん、ユウ君のお母さんが赤ちゃん産むの〜♪」

言いたい事を正しく言い当てたつららに、にぱぁと嬉しそうにリクオは笑う

そのお日様のような愛らしい笑顔につららもつられて笑顔になる

「あらあら、それはおめでたいですね〜」

「うん、おめでたいね〜」

にこにこにこにこ、おめでたのお知らせに、つららとリクオは嬉しそうに暫くの間笑い合っていると

「ねえ、赤ちゃんはどこから来るの?」

リクオの口からまたしても爆弾発言が降ってきた



またですかーリクオ様ーーーー!!



つららは笑顔のままぴしりと固まり、リクオを抱いた手をぷるぷると震わせながら心の中で叫んだ

またしてもこの幼子は説明し辛い事を聞いてきますか?

と、つららは心の中で涙を流しながら呟いた

「え、え〜と・・・」

さすがにこれは説明し辛いです、とつららは頬を引き攣らせながら「あ〜」とか「う〜」とか呻いていた

ふと、開け放たれた襖の先に視線を向けると、一羽の鳥が庭の池の水を飲みに降り立っていた

ただの雀であったが、つららはそれを見てピンと閃いた



そうです、こういう時の古くからの例え話がありました!



つららはリクオに見えないようにほくそ笑むと、オホンと咳払いをしてリクオの顔を見下ろした

「若、赤ちゃんはコウノトリが連れて来てくれるのですよ」

「え、そうなの?」

「はい、コウノトリが赤ちゃんの入った籠を咥えてある日、お父さんとお母さんの元へ届けてくれるのです」

「ほんと!僕の所にもコウノトリ来るかな?」

「え、ええ・・・と、それはちょっと・・・・」

「来ないの?」

つららの話に瞳をキラキラさせていたリクオは、自分の所に赤ちゃんが来ないのかとしょんぼりと項垂れてしまった

「わ、若がいい子にしていたら来ると思いますよ〜〜お、おほほほほ〜」



2代目、若菜様申し訳ありません〜〜



つららは心の中で二人に謝ると、誤魔化すように笑った

「そっか、じゃあ僕これからいい子にするね」

にぱぁっ、と眩しいくらいの笑顔を向けてリクオは笑って言った

「あ、あははは〜・・・そ、そうですね〜」

純朴な幼い子供の言葉に胸が痛んだが、本当の事も言えずつららは笑うしかなかった

しかし――

引き攣りながら笑うつららの耳にまたしても信じられない言葉が聞こえてきた



「いい子にしてたら『つららと僕の子供』届けてくれるよね!」



早く来ないかな〜、などと嬉しそうに言うリクオの目の前でつららは今度こそ固まってしまった

てっきり弟か妹が欲しい発言をしていたと思っていたつららは、リクオの予想外の発言に心の中で突っ込んだ



そ、そそそそっちですかーーーーーー!!



と・・・・・



今日も奴良家は平和です






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