つらら

つらら

こちらじゃ

こちら

はよう

はよう

きてたもれ



ぱちっ

閉じていた瞼を勢い良く開く

視界に入ってきたのは見慣れぬ天井と

自分と同じ黄金色の瞳だった。



「つららがいない?」

夕刻の空に夜の蚊帳が降り始めた頃、奴良家の玄関先で帰宅したばかりのリクオの声が響いた

「てっきり若と一緒に帰ってくるものだとばかり」

今日は雪女も夕食当番だったのですが、と夕食の準備をしていた毛倡妓は心配そうにリクオに告げた

それを聞いたリクオは眉間に皺を寄せて何やら考え込んでいる

真面目なつららは今まで夕食当番をサボった事などなかった

今日も「申し訳ありません若、今日は夕食の当番なので先に帰りますね」と自分に告げて早々に帰って行った筈だ

あのつららが主の自分に何も言わずに姿を消すなんて事はどう考えてもありえない

誘拐?

いやまさか

リクオは脳裏を過ぎった考えに頭を振った

仮にも彼女は奴良組の一員でありしかも雪女だ

普通の人間相手にどうこうなるわけが無い

だとすると・・・

そこまで考えたリクオは、弾かれるように顔を上げた

「三羽烏!」

ばささ

リクオの声と共に無数の羽根を撒き散らしながら漆黒の影が舞い降りた

「お呼びでしょうか若」

黒羽丸が恭しく頭を垂れながらリクオの元へ跪く

「街中のカラス達に伝えろ」

静かな凛とした声が辺りに響いた

そこには夜の姿になったリクオが黒羽丸を見下ろしていた


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