先程からリクオは隣で洗濯物を畳んでいるつららをじっと眺めていた
どんなだろう・・・・
リクオの頬は心なしか赤く染まっている
つららを見つめる瞳もどこか熱を孕んでおり、ぼおっとしているその顔もどこか憂いを帯びていた
つららの・・・・てどんな風になるんだろう?
リクオはそこまで考えると顔を赤らめて俯いてしまった
「どうしました若?」
そんなリクオの変化にいち早く気づいたつららは慌ててリクオの元へ近づくとそっと額に手を当てた
「顔が赤いですね、熱でもあるのかしら?」
そう言って熱を確認するつららの手の平はひんやりと冷たく赤く火照った顔には気持ちが良い
「つらら」
目の前に迫ったつららの顔を見上げながらリクオはうわ言のように呟いた
つららの唇がすぐそこにある・・・
リクオは瑞々しくぷるんと震える唇に釘付けになる
そう、先程からリクオが見ていたのはつららの唇だった
薄く色づく桜色の唇にリクオは興味があった
唇と言うよりはそれを使った行為の方なのだが
つららのぷっくりと膨らんだ瑞々しい唇に指を這わせながらリクオはつららに問うた
「ねえ、口吸いってどんななの?」
「へ?」
先程まで熱があるのかと心配していた主が突然思わぬことを口にしたので、つららは目をまん丸にして固まってしまった
しかも、主の瞳は真剣そのもので自分の唇をまじまじと見つめているではないか
例えようのない羞恥に体が震え、顔が真っ赤になってしまう
「な、なに・・・を」
言い出すんですか?掠れた声で聞き返すつららに、リクオは至極真面目な顔で答えた
「だって、雪女の業は口吸いなんでしょ?僕見たことなかったからどんなのかなって」
僕したことないし
そう言って凶悪な程の無邪気な笑顔で聞いてきた
その言葉を聞いたつららは思わずごくりと喉を鳴らしてしまった
その音に、はっと我に帰ると慌ててリクオから離れた
「だ、ダメです!」
首を横に振りリクオに向かって腕でバツの字を作る
「なんで?」
リクオは不満げな顔でまた聞いてきた
「だ、だって・・・・」
つららはそこまで言うと急に俯いてしまった
心なしか頬が赤く染まっている
「?」
リクオは意味が分からないといった様子で首を傾げながらつららを見ていた
その視線に居た堪れなくなったつららがとうとう観念して告白しだした
「だって、だって・・・・分からないんですもの」
恥ずかしそうに視線を落としながら呟くように告げた内容にリクオはあっけにとられた
「分からないって?」
「ええ、分からないんです。だってだって私・・・・」
したことないんですもの!
言ってつららは、かぁぁっと顔を真っ赤にして俯いてしまった
「へ?したことないって??」
「うう、私まだ未熟者ですから・・・他の雪女達のように”口吸い”とかしたことないんです」
ううう、と人差し指同士をくっつけていじけモードに入る
そんなつららをまじまじと見ていたリクオは
「じゃあどうなるか試してみよっか?」
リクオの言葉につららはがばっと顔を上げた
「な、ななな何を言ってるんですか?」
「ん?何って口吸いしよって」
「だ、ダメですダメに決まっているでしょう!!」
「なんで?」
「な、なんでって雪女と口吸いすることがどういう事かおわかりじゃないのですか?」
死んじゃうんですよ!
つららが怒りも露に捲くし立てるがリクオはどこ吹く風と言った様で、にこにこと笑顔を向けてくるばかりだった
「大丈夫だよ、つららはそんな事しないから」
何を根拠にそう断言できるのかと、つららはリクオの言葉に憤慨した
「だだだ、ダメです!ダメったらダメえぇぇぇぇ!!」
どんがらがっしゃ〜ん
つららはリクオを盛大に突き飛ばし一目散に逃げて行ってしまった
一方リクオはと言うと――
つららに思い切り突き飛ばされ、側にあった座卓ごと引っ繰り返りその下敷きになったにも関わらず、掠り傷ひとつ負わなかった
しかも、「よいしょ」と何事もなかったかのように引っ繰り返った座卓を元に戻し、やれやれと言いながらその場に座ると何やら考え込みだした
暫くの間考えていたリクオは「よし」と一人頷くと
「昼がダメなら夜で試してみよう」と呟いていた
続きます(笑)
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