□続 花酔い



ぽつりと灯る薄暗い明かりの中
障子越しに写るのは女の影
緩やかにうねる長い髪
小刻みに震える女の躰
その細腕は何故か天井に向かって伸び、よく見るとその手首には何か細い紐のようなものが絡まっていた
そして、女の影にゆっくりと近づく男の影
女よりも太い腕で女の肩を抱きしめる
その男の首から上は奇妙な事に真平らだった



「あ、あぁん」
白磁の肌にしっとりと汗を張り付かせながら紀乃が喘ぐ
天井から吊り上げられた細腕を支えに力の抜けた躰が揺れる
その色香を放つ白い肌を、男の手が忙しなく動き回っていた
紀乃の体は今や首無の操り紐で雁字搦めに縛り上げられていた
体中の所々に硬い結び目があり、六角形の小さな輪を幾つも作りだしていた
一本の紐で器用に縛り上げたその輪からは、女の恥ずかしい箇所がよく見えるように晒されている
昔、花魁で培った百戦錬磨の経験を持つこの女でさえ羞恥を煽るほど淫らな姿を作り上げていた
「や、首無……もうやめて」
紀乃は気丈にも男の顔をきっと睨みながらそう叫んだ
その瞬間、男の動きが止まった

男の生首が止まった
足を大きく広げるように結い上げたその中心から首無の顔がゆっくりと上を向いてきた
女の愛液で濡れた唇をぺろりと舐めると、にやりと口角を上げて女を見上げる
その見せ付けるような仕草に紀乃は一瞬視線を逸らしたが直ぐに男の顔を見下ろすと怒った様な口調でこう言ってきた
「いい加減にしないと怒るわよ」
言った女の頬は薄っすらと赤く染まっている
その様子をじっと見ていた首無は

「イヤだ」

舌をぺろっと出してそう言ってきた

本来女に優しいこの男
普段なら女が嫌がれば直ぐに止めてくれるはずなのだが

その珍しい否定の言葉に紀乃は軽く目を瞠る
少しの間女が呆けていると、男はまた顔を下へと向けると愛撫を再開し始めてしまった
「やん、ちょ、ちょっと首無」
その刺激に反応してしまった紀乃は照れ隠しにまた男を怒鳴る
しかし首無はその声を無視して愛撫を続けた

ぞくぞくと躰に電流が走る
割れ目を辿り秘芯を舌先で刺激していくその愛撫に知らず声が漏れてしまった
「あ、あん」
「もっといい声を聞かせろよ」
恋人の声に気をよくした首無は、にやりと笑うともっと聞かせろと言ってくる
何故か荒々しいその態度に紀乃は一瞬トキメイたが、しかしこんなやられっぱなしは嫌だと首を激しく横へと振った
「嫌よ、今日のあんたちょっと変よ」
男の首を掴んでこちらへ向かせたかったが手足を拘束されて思うように体が動かない
しかも恥ずかし過ぎる姿だ
キリキリと締め上げる男の綾取り紐はそう簡単には外せない
どうしようか迷っているうちに後ろから強い突きが女の躰を貫いた
「あ、あああああ」
その慣れた刺激に女の躰が否応無しに反応する
背後から躰を持ち上げられ、その中心を抉られる
背中に感じるのは愛した男の肌の熱
男が興奮する度、体中に絡んだ紐がキリキリと女の躰を締め上げてくる
大きく開かされた足の間には相変わらず男の頭があり、執拗にその秘芯に刺激を与えていた
これで感じない女なんていない

「ああああぁぁぁぁぁぁぁぁ」

紀乃は悲鳴にも似た声を上げて喘いだ
がくがくと腰が震える
ビクッビクッと躰が強張る
中心が焼け爛れてしまうんじゃないかと思うほど熱くなり体中にその熱が駆け巡る
掠れていく声を聞きながら紀乃の思考は男の与える快楽へと没頭していった
そして一際激しく躰がつっぱり

甘い悲鳴と共に女は絶頂に登り詰めた

がくりと女の躰から力が抜ける
くたりとした女の躰を支えたまま男の愛撫はまだ終わっていなかった
「あん」
その終わらない刺激に、紀乃は思わず声を漏らすと、痺れる躰で男を見下ろす
己の下半身から響く厭らしい水音に紀乃の顔がみるみる内に真っ赤に染まっていく
「この……」



絶倫野郎!!



ぷっつんした

いくらなんでも情緒もへったくれも無い男のこの行為にいい加減紀乃が切れた
しゅるしゅるしゅる、と男の背後で何かが擦れる音が聞こえてくる
次の瞬間

がしり

「え……?」
気づいた時にはもう遅く、首無は紀乃の髪に巻き取られていた
首も体もその光沢を放つ良い香りの髪の毛に拘束される

相変わらず綺麗な髪だな

と首無は不覚にも見蕩れてしまったその瞬間
己の畏が解けてしまった
しゅるりと緩んだその隙をついて紀乃はその紐の拘束から逃げた
お返しとばかりに己の髪で男を締め上げる
軽々と持ち上げた男の生首と体を見上げながら女は

にこり

妖艶に笑った

その笑みに首無の背筋がぞくりと粟立つ



やばい



本能的に危険を察知した男の顔がさっと青褪めた
「あ、あの……」
「うふふ、どう料理してやろうかしら」
引き攣りながら女を見下ろした男の元へ、女の嬉しそうな声が聞こえて来た
見ると怒りに燃え盛った女の笑顔が見える

やり過ぎた!!

そう男が気がついた時には時既に遅く
散々好き放題やってくれた恋人へ、女の怨念の篭った仕返しがされたのはいわずもがな

男の倍
いやそれ以上に、経験豊富な元花魁の手によって、こってりたっぷりその精も根も搾り取られたそうな



キリキリキリ
といつものように絞め上げる
首に
肩に
腰に
その肢体全てを
絞めるのはあの人の専売特許
でも
私も同じ
キリキリキリ
と今日もまたその躰を締め上げる





「何よ結局お仕置きになってないじゃない」

「い、いや……そんな事は」



チャンチャン

終われ

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