キリキリキリ
といつものように絞め上げる
首に
肩に
腰に
その肢体全てを
絞めるのはあの人の専売特許
でも
私も同じ
キリキリキリ
と今日もまたその躰を締め上げる
「うふふ〜、首無み〜っけ！」
酒の臭いをしこたま漂わせて今日も毛倡妓が俺の元へとやってきた
「今日もずいぶんと飲んでるな」
俺は手を休めて振り返ると呆れたような声でそう言ってやった
「なぁに〜首無、あんたしらふなの〜？」
この女にしては珍しく呂律の廻らない声でつまらなそうにそう言いうと、俺の部屋へと入ってきた
途端、酒の臭いがきつくなる
くらくらと鼻につくその強い匂いに、下戸である俺は眉間に皺を寄せながら目の前の女を見下ろした
見下ろした昔馴染みの女は酒に酔っているせいなのか、ふらふらと足元がおぼつかない
心配しながら見ていると案の定、床に敷いてあったものに躓いて前のめりに倒れてきた
「きゃっ」
「おっと、気をつけろよ紀乃」
俺は躊躇う事無く紀乃の体を受け止めると苦笑しながら忠告する
「うふふ、ごめ〜ん」
紀乃はそんな俺の言葉に怒る風もなく上目遣いでそう言うと俺へと擦り寄ってきた
「おや、酒豪で名高い姐さんが泥酔とは驚きですね」
その可愛いしぐさにむず痒さを感じ、つい憎まれ口を零してしまう
他人行儀なその口調に紀乃の顔がみるみるうちに不機嫌なそれへと変わっていった
「なによぉ〜私が酔ってちゃ悪いって言うの？」
いつもお色気たっぷりの大人びた印象を持つこの女は、俺の前では時々こうやって甘えた姿を見せる事がある
己しか知らない女の素顔を愛おしく思いながら俺は更に続けた
「いや、ただ……」
「ただ？」
もったいつけて言う俺の言葉に紀乃は小首を傾げる
その可愛い仕草に俺は目を細めると言葉の続きを囁いた
「ただ、姐さんを介抱するのは結構骨が折れるからね」
その瞬間、元花魁であった女の頬がかっと朱に染まった
そして期待通りにぷいっと顔を横に逸らして拗ね始めた
俺はその仕草に満足そうに微笑むと愛しい女を優しく抱きしめてやった
この女は時々こうして酒に酔った勢いで俺の部屋にやってくる
その理由は知っていた
気が強く少々男勝りなこの女は、実を言うととても寂しがり屋で初心な女なのだ
こんなに酔っているのも、自分の欲求を素直に言うのが恥ずかしかったからだろう
きっと浴びるように酒を飲んだに違いない
奴良組一の酒豪を誇る女の酒に無理矢理付き合わされたであろう青と黒はきっと広間で泥酔している
二人には申し訳ないなと思いながら目の前の女がここまで無事に辿り着けた事に俺は安堵していた
元花魁で酒に強いといっても女なのだ
しかもこんなにも酔って……
足元だってふらふらでいつ倒れるかわかりゃしない
組の中で俺達の仲を知る者は沢山いるが、しかし、だからと言ってこの機会に狼藉を働かんとする輩だっているかもしれない
見目美しいこの女は男を簡単に魅了してしまう
しかしその実力もあってか、自分がそんな目に合うかもなんてこれっぽっちも思ってやしないのだ
何匹の屋敷の妖怪達がお前の畏に魅了されていると思っているのだ
なんだか段々腹が立ってきた
俺はじっと潤んだ瞳で見上げてくる紀乃を見つめ返した
そしてもう一度己の腕の中へときつく抱き寄せる
「うふふ、あったか〜い」
そんな俺の気持ちを露ほども知らない女は暢気な声でそう呟く
その瞬間
俺の中の理性がぷつりと音を立てて切れた
「ん、んん、はっ」
ぷはっと苦しさに堪らず唇を逸らす
しかし男の唇はそれを許さないとばかりに女の唇を塞ぐと激しく啄ばんできた
「ん、ん〜んん〜〜」
女は嫌々と顔を振りながら男の胸を激しく叩く
しかし優男風の男の体はびくともせず、その代わりきつく抱きしめられて動きを封じられてしまった
そしてそのままどん、と鈍い音を立てて床へと押し倒された
「うっ」
咽るような背中の痛みに眉間に皺を寄せながら男の顔を目だけで見上げると
怒っているのか眉間に濃く皺が寄っているのが見えた
何か男の機嫌を損ねるような事をしてしまったのだろうかと女は胸中で首を傾げる
今日は何故かひどく寂しく感じてしまい、ヤケ酒とばかりに近くに居た青田坊と黒田坊を捕まえて無理矢理酒につき合わさせた
三十合程飲んだ所で青と黒が倒れてしまったので、仕切り直しに近くに居た小妖怪たちと飲み比べをしてさらに二十合飲んだ
飲んでいくうちに次々と仲間の妖怪達がばたばたと倒れてしまったので、仕方なく男のもとへと来てみたのだが
しかし、男の部屋に辿り着く頃には自分もすっかり酔いが回ってしまい、気がついたら男に絡んでいた
う〜ん、でもこれっていつもの事よねぇ……
女は今度こそ本当に首を傾げて男を見上げた
見上げた男は相変わらず硬く目を瞑り己の唇を貪っていた
いつもなら優しく話を聞いてくれて抱き寄せてくれてそのまま……
毎度、甘い夜を過ごさせてくれる恋人に女はまた首を傾げた
今日の首無は何か変
強いて言えば浮気現場を見つけられて、嫉妬に狂った男が無理矢理女を押し倒しているような……
いやいやいや、私そんな事してないし……
己の考えに内心突っ込みを入れていると、下の方がもそもそと何やらこそばゆくなってきた
「ちょ、ちょっと首無何してるの！？」
見れば、唇への愛撫はいつの間にか終わっており、胸の谷間に顔を埋めながら男の右手が腰の辺りを弄っているところだった
その性急過ぎる行動に女は堪らず待ったをかける
手で遮ろうとしたら、体を密着させられ上手く止められなかった
その間にも男の手は腰を撫で、臀部をさわりと掴み、足の合わせの部分の着物を肌蹴けさせていく
薄桃色の着物から覗いた太腿が、白く艶かしく月の微光に晒されてそこに浮き上がった
さわりさわりとその瑞々しい柔肌を撫でていく
足の付け根まで晒されて、女は堪らずもがいた
「ちょ、首無、ね、ねぇどうしたの？今日はなんか」
「紀乃」
慌てて男に声をかける女に男は静かな淡々とした声で囁いてきた
紀乃の体がびくりと跳ねる
「あ、はぁ、首無……ま、待って」
女の口から小さな吐息が漏れる
男の肩に力なく手を置くと頬を染めながら潤んだ瞳で男を見上げた
「紀乃」
「あ、んっっっ」
首無は肌蹴た胸の谷間に顔を埋めるとちろりと舌を這わせる
下の方ではその右手が女の躰の中心を弄っていた
くちゅくちゅと小さな音が響きだす
その度に紀乃の躰はびくりと反応し背を仰け反らせた
「ん、あ…あぁ首無」
紀乃は止めるのも忘れて男の手の動きに己の意識を集中させていく
小さかった下半身の音は次第に大きく淫らな音を紡ぎだす
くちゅ ぴちゃ ぐちゅ ぐちゅ
小さな先端は既にぷくりと芽を膨らませ痛いほどに充血していた
男の指の動きに合わせて己の骨髄に電流が走っていく
いつの間にか剥ぎ取られた着物は六畳一間の隅に無残にも放られ、ほとんど役目を果たさない襦袢だけが辛うじて女の躰の一部を隠しているだけだった
慣れた男の手つきに女も次第に足を開いていく
大きく開かれたその中心には男の大きな手
忙しなくその長い指先が動き女の感じる場所を攻める
そして
びくびくと足を痙攣させ、腰を跳ねさせる女の上にあったはずの男の頭がいつの間にか消えていた
「あ、ああん、お前さん」
口付けをせがもうと薄っすらと開けた紀乃の瞳には首の無い広い肩が映った
「え？」
驚いたのも束の間
激しい電流に紀乃が喘いだ
「あ、あぁぁあん」
がくがくと腰が震える
激しい刺激に女は悶えながらその先を見ると
そこには
生首があった
「く、くくく首無ぃ〜〜？」
紀乃は色気もへったくれも忘れて素っ頓狂な声を上げた
「くくく、こういう時、首が繋がってないと便利だな」
首無は紀乃と目が合うと、屈託無い笑顔を向けてそうのたまってきた
そして見せ付けるように、開いた足の中心をぺろりと長い舌で舐め上げる
「ちょ、ちょっとぉ」
紀乃は真っ赤な顔をしてがばりと起き上がろうとしたが、上に乗ったままの男の体に遮られてしまった
「いつも平凡なのじゃぁつまらないからな」
首無は楽しそうにそう言うと、くるりと紀乃の体を回転させてしまった
布団の上に四つん這いにさせられる
羞恥心を煽るその姿勢に紀乃は慌てて元に戻ろうとしたが
がしり
またしても男の体の方に邪魔されてしまった
「にゃあぁぁぁぁ〜〜」
相当慌てたのだろう、紀乃は猫のような悲鳴を上げて更に真っ赤になった
「ちょ、やめなさい首無、あんた本気で怒るわよ」
己の体をがんじがらめに拘束した首無の体を睨みつけながら真っ赤な顔で怒鳴ってみたが男の方は止める気はないようだ
更に開いたその間にゆっくりと顔を近づけると舌を差し込んできた
「や、やあっ」
くちゅくちゅ ぴちゃぴちゃと音が響きだす
両手両足を使って女の躰を拘束する男の力は弛まない
嫌々と羞恥で顔を振る女に更に追い討ちをかけていく
怯んだ女の隙を見逃さず、余った手の方で女の乳房に優しく愛撫を施す
憎らしい程優しいその手つきに女の体が無意識のうちに歓喜の声を上げる
「散々心配させて焦らしてくれた礼はたっぷりとしなくちゃな」
上州の弦殺師
名を首無という
比類なき美貌を持つこの男にも弱点はあったようで
この男を振り回す愛しい女へのお仕置きは愛情の裏返し
その後お仕置きが成功したのかは……
また今度
つづく
［戻る］ ［裏トップ］ [次へ]