全六話(1/6)



「ッ・・・!!」

かっと見開いた瞳
蒼白になった顔
額には脂汗
ハッ ハッ と荒い呼吸を繰り返す肩
声にならない声を上げて飛び起きたその人は
カラカラになった喉をごくりと鳴らして、ようやく落ち着きを取り戻し始めた

恐ろしい夢を見た

嫌な夢だ

嫌な

イヤな



コワイユメ



いや・・・夢なんかじゃない
僕は知っている
あれは

本当にあった事

土蜘蛛

彼が与えた



キョウフ



目の前で彼女が攫われて行くのを
僕は



タダ ミテイルコトシカ デキナカッタ



でも

助け出した

今は僕の元に帰ってきた彼女

でも



コワイ



いつかまた
彼女が攫われるんじゃないかって
酷い目に合うんじゃないかって
心配で心配で

目が離せない

不安で不安で

彼女のことばかり考えてしまう



自らの腕で己の体を掻き抱き小刻みに震える体を慰めていると
遠くの方からパタパタと聞き慣れた足音が聞こえてきた
その音に彼は弾かれたように顔を上げ、音のする方に顔を向けた
暫くじっと待っていると、すらりと襖が開け放たれる
眩しい陽光と共に現れたのは

夢にも出てきた彼女だった

「おはようございますリクオ様」

彼女は屈託無く笑う
まるで何事も無かったかのように
そこに在るのが当たり前のように

でも

僕は思う



この瞬間こそが幸せなのだと



「おはようつらら」

僕は何食わぬ顔で彼女に返事を返す

そう

重要なのは彼女がそこに在るって事

そう

大事なのは僕がもっと強くならなきゃだって事

だから

彼女にはこの不安を気づかれてはいけない

だって

ボクガカノジョヲ マモルンダカラ



――恐怖から気づく当たり前のシアワセ



ソレの名は・・・・


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