その手は温かかった
その手は力強かった
崩れそうになったその体を支えてくれた
落ちそうになった気持ちを救い上げてくれた
やっと
やっと
会えた
やっと
やっと
見つけた
そう思ったとき
自分の目から熱い何かが零れた
そして
その人はそっとその熱い雫を拭ってくれた
もう泣かないで
そう言って笑いかけてくれた
そう言って肩を叩いてくれた
温かい手
優しい笑顔
ふと自分は気づいた
その人の
居る場所
その人の
周り
何もなかった
大地は割れ
建物は流され
すべて無くなっていた
自分は途方にくれた
「なんで」
知らず呟いていた
そしてその人は言った
「全て持っていかれたよ」
その人は淋しそうに言った
「でもね」
そしてその人はこう続けた
「でも生きてる」
自分はその言葉に改めて自分を見た
生きてる
息もしている
手もある
足もある
五体満足
揃ってる
ああ
生きているんだ
その人の言葉をようやく理解して
自分は安堵した
地面は裂け
緑は倒され
建物も流され
道も無い
車も無い
信号機も
電信柱も
家も
人も
ない
けど
生きている
イキテイル
生き延びている
自分は何度も自分の手を見つめながら
何度も繰り返していた
(続く)
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