結婚――愛し合う男女が婚姻を交し一つ屋根の下で暮らすようになること
「結婚をすると相手の態度が変わった」
とよく耳にすることがある
その一つにこのような変わり方がある
それは……
男の女に対する接し方の変化
である
さてこの変化、女が妻になった途端変わることが多く
その行動は実に判り易いものである
ではどのような事をするのか、実際に新婚家庭を覗いてみてみよう
新婚一ヶ月目のとある夫婦の朝
まだまだ初々しいその夫婦は、朝も早くから一つの部屋に一緒に居た
妻は忙しそうに部屋の掃除をし、夫はその直ぐ側で畳に寝そべっている
ごくありふれた日常である
しかし……
「あの……リクオ様?」
「なに?」
「い、いえ……何も」
妻である女は箒を両手で握り締めると、頬を染めてちらちらと背後の夫を気にしていた
奴良組本家の屋敷の一角
二十畳はあろうかという大きな広間の真ん中で、夫であるリクオは畳に寝そべり己の腕を枕にしながら妻の姿を眺めていた
「あ、あの……やりにくいです」
つららは意を決したように背後で自分をじっと見つめる夫にそう告げた
対する夫――リクオ――は、にこにこ笑顔のまま聞き返してきた
「なんで?」
「いや、ですからその……ずっと見られてるとなんだか落ち着かなくて」
背後で幸せそうに見つめてくる夫をまた、ちらりと伺いながら妻は困ったようにそう答えた
先程からリクオは朝の掃除をするつららの姿をじっと眺めていた
一緒に居られるのは嬉しいのですが……
こう見つめ続けられていると非常にやりにくい
顔を見てしまうと恥ずかしさで体温が急上昇してしまうので、今は背を向けて掃除をしているのだが……
しかし、背後からひしひしと伝わってくる視線に、なんだか全身を嘗め回されているようなそんな錯覚を覚えてしまう
視線と言う名のセクハラを受け、つららは箒を持つ手が汗ばんでいった
ああ、もう!
堪らないとばかりに羞恥でまた顔を伏せていると
「なんで?僕はこうやって見ているのが好きなんだけど」
つららは嫌?と昼の姿のリクオにそう言われてしまえば、つららはもう何も言えなくなってしまう
「知りません」
つららは恥ずかしさで熱くなった頬を隠すように、ぷいっと顔を逸らすと「平常心、平常心」と心の中で唱えながら作業に没頭するように努めるのであった
そして昼
昼食の準備で慌しい厨房に突如その人は現れた
「今日は何かな?」
「きゃっ」
昼食に出す煮物の野菜を切っていたつららの肩にするりと大きな腕が回ってきた
それに驚いたつららはもう少しのところで指を切りそうになり悲鳴を上げた
「大丈夫つらら?気をつけないとダメだよ」
驚かした張本人は心配そうにつららの指先を見た後、甘えるようにつららの頭に擦り寄ってきた
「もう、リクオ様危ないです。それに皆が見ています」
昼食前の台所はまさに戦場だ
奴良家に棲む妖怪達の飯の支度をしないといけないものだから、女性人たちは二時間も前から台所中を駆けずり回っていた
そんな中、ひょっこり現れたこの屋敷の主と来たら、そんな事などお構い無しに妻に甘えてくるのだから堪ったものではない
包丁を持った手をリクオに近づけないようにしながらつららは必死に「離れてください」と訴えていた
しかし……
「嫌だ」
対する夫は更にその細い首に巻きつくと体重をかけてくる
自分よりも一回りも二回りも大きな男に圧し掛かられてしまいつららは焦った
「み、皆が見てますから〜〜!!」
お願いです止めて下さい〜〜、と必死に訴えてくるつららの顔は既に真っ赤だ
新婚ほやほや、熱々な夫婦のその遣り取りを遠巻きに見ながら、周りの女衆たちはくすくすと笑いを噛み殺していた
[戻る] [アンケトップ] [次へ]