「あの〜」

そんなこんなで一連の騒動も治まり、日もとっぷりと沈んだ深夜

そろそろ寝ようかと床に就こうとしたリクオとつららの部屋に誰かがやって来た

リクオはその申し訳なさそうな声に嘆息すると、廊下に佇む相手に「どうした?」と解りきった疑問を投げかけた

すると



「あの……今夜も一緒に寝ていいですか?」



返ってきた答えは予想通りだった

リクオはその言葉に数回頭をがしがしと掻くと徐に襖を開いた

開いた視線の先には、これまた予想通りの人物が居た

細い三日月に照らされながら愛用の枕を抱えた息子が申し訳なさそうにこちらを見ていた



「僕の部屋、トラップだらけなんです」



里伴はそう言うと、長い黒髪になった頭部を掻いた

リクオはその言葉に盛大な溜息を吐いてみせた

部屋がトラップだらけの理由は言わずもがな

聞くだけ無駄だと解ってはいるが、しかし一応聞いてみた

「お前朝になったらまた絶叫するんだろう?」

解りきったその答えに、父はげんなりしながら息子を見下ろす

その言葉に里伴は「そうなんですが」と苦笑するばかり

朝になって昼の姿になった息子は、両親と一緒に寝た事をきっと嫌がるだろう

解ってはいた、解ってはいるが



しかし憐れな息子を放っておける筈も無く、リクオはまた小さく嘆息すると息子を部屋へと招き入れてあげるのであった



昼と夜とで姿の変わってしまう子供達

半妖なのだから仕方ないと思ってはいたが、まさか中身まで変わってしまうとは思ってもいなかった

姿ばかりではなく性格まで昼と夜で変わる



里伴の場合

昼と夜の姿は父と全く同じなのに対し性格はその逆であった

昼は夜の父のような少々気性の荒いガキ大将のような性格で

そして夜になると昼の父のような朗らかな性格になる

見た目は同じなのに中身が逆だと混乱してしまうと下僕達は言うが

しかし、息子はまだましだった



娘の六花

これはどうにもこうにも父も母も最初は困惑した

昼は天使のような優しい娘なのに

夜になると般若のような鬼女のような気性の荒い女へと変貌する

息子と父同様

六花も母であるつららに似たのかと思っていたのだが、何やら違うようだった

それが解ったのは、六花が大分成長をしてからだった

そのきっかけは、随分前に隠居した鴉天狗が久し振りに屋敷へと遊びに来た時だった

夜の六花に会った途端「雪麗が、雪麗が〜〜!!」と絶叫しながら山へと逃げ帰ってしまったのだった

そう、六花は何故か祖母である雪麗に生き写しであったとか

雪麗の事を良く知る妖怪達は皆すでに隠居してしまい屋敷には居なかったため遅くに発覚した事実であった



つららのお母さんて一体どんな凄い妖怪だったんだろう



と、この時ばかりはリクオも震え上がったという

そして娘を見ながら「つららはつららのままで良かった」と、心の底から安堵するのだった



まあ、何はともあれ

朝になったらあの娘はまた、弟や自分達に半泣き状態で謝りにやって来るのだろうなと

リクオは毎度の事に苦笑しながら目を閉じるのであった



子孫繁栄



それは願いであり

希望であり

そして――



闘いでもあった



「はぁ〜、つららは僕の奥さんなのに」

「はいはい、リクオ様」

「どうしてうちの子供達はこう、空気を読んでくれないんだろうね?」

「ふふふ、そろそろ子離れしないとですね?」

「それを言うなら”親離れ”でしょ」

「ふふふ、そうでしたすみませんリクオ様」



親の心子知らず



嗚呼

夫婦二人きりの甘い生活が戻るのは

さて

いつになる事やら……



まだまだ道のりは長いのであった




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