夜半時

ひたひたと夜の廊下を一人歩くつららの姿があった

長い黒髪と雪の様な白い肌をしっとりと濡らし

湯浴みを終えたばかりの襦袢姿で自室へと向かっていた



あの角を曲がれば自分の部屋



つららはそう思いながら、ふと視線を先へと向けた

その時――



「つらら」



つららの元に耳慣れた主の声が聞こえて来た

背後から聞こえて来たその声につららは反射的に振り返る

案の定そこにはリクオの姿があった

「こんな夜分にどうされましたか?」

夜の姿へと変じた彼につららはいつものように言葉をかけた

しかしリクオはそんなつららを黙ったまま見下ろしていた

「なにか……」

ありましたか?と、一向に用件を言いつけてこない主につららが首を傾げていると

また背後から声が聞こえて来た

その声に「え?」と動きを止める

まさか?

つららは胸中で呟きながらゆっくりと振り返った

途端、驚愕に見開かれる瞳

黄金の瞳をこれでもかと言うほど瞠りながらつららはポカンと口を開けてその場に固まってしまった

つららの振り返った視線の先には――



リクオの姿



にこにこと春の陽だまりの様な笑顔を向けた昼のリクオの姿があった



「え?え?」

つららは軽いパニックになりながら前後に居る『リクオ』を交互に見た

「な、な、な……」



なんですかこれは〜〜〜〜〜〜!!??



次の瞬間つららの口から絶叫が木霊した

わなわなと肩を震わせ

ぷるぷると震える指先で二人のリクオを指差す



「ああ、これか?なんか修行してたらこうなった」



夢だ幻だと己の頬を摘んで後退るつららに、二人のリクオはずいっと近づくと笑顔で言ってきた

「しゅ、修行してたらって……」

その衝撃的な発言につららは瞳の螺旋を更にぐるぐると回しながらリクオ達を見る

どこからどう見ても昼のリクオと夜のリクオにつららの頭は恐慌状態だ

いよいよ以って卒倒しかけていたつららだったが、そこではたと気づいた



近い

近すぎる



何がとはいわずもがな

二人のリクオの距離であった

心なしかリクオ達の顔が近くにあるような

しかも挟み撃ちにされているのではないかと首を傾げた

「あ、あの……リクオ様?」

「「なんだ(い)?」」

つららの問いかけに二人のリクオは爽やかな笑顔で返してきた

その間にも段々と近づいてくる大小の体

これは気のせいなんかじゃない!とつららが気づいた時には遅かった

がしり

と徐に掴まれる腕

「きゃっ」

にやりと歪む形の良い唇

「つらら」

耳に心地の良い低い声

「僕達二人になれたんだ」

無邪気にコロコロと鳴る笑い声



「「せっかくだから」」



二人のリクオの声が同時に聞こえた

そう思った瞬間

「きゃあっ!?」

つららの体がふいに宙に浮いた



抱き上げられた

夜のリクオがつららを抱き上げたのだ

軽々と体を支える主につららの体は強張る

これは危険だと本能が伝えてくる

「な、なにを?」

震える声で見上げれば、楽しそうに目を細める主の顔が見えた

「皆で楽しもうよ」

横からは楽しそうににこにこと微笑む昼の主

「え?え?え?」

混乱し状況を飲み込めないつららを他所に

二人の主はさも楽しそうに長い廊下を歩き始めるのであった

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