鳥居は困っていた

既に用は済み、さて戻ろうとした所で声をかけられてしまった

「ねえ、ねえ、君ひとり?」

そんな軽い口調が聞こえてきたと思った時は遅かった

「え?」

と顔を上げるとにやついた男の顔が三つあった

しかも行く手を阻むように前後を塞がれている

「あ、あの……」

通してください、と言う鳥居の言葉は、次の男達の声でかき消されてしまった

「俺達と一緒に遊ばない?」

突然腕を掴まれ、一瞬で体が強張る

有無を言わせぬ強い拘束に全身が震えだす

今この場に居るのは

女である自分と

男である彼ら



人数でも力でも負けている



そう思った瞬間足が竦んだ

何をされるのか分らないという恐怖に知らず体が震える

「あれ〜恐がってるの?大丈夫俺たち優しいから、なあ?」

「ああ、優しくするよ〜♪」



にやにやにや



上から見下ろしてくる男達の厭らしい笑みが覗いてきた

「離してください!」

鳥居は堪らずありったけの声で叫ぶ

しかし男達はその声を意に介する風でもなくくすくすと笑い続ける

そして



ぐいっと腕ごと体を引き寄せられた



ヤダ



鳥居がそう胸中で叫んだ時――



「ぐあっ」



一人の男の悲鳴が聞こえてきた

続いて拘束されていた腕の痛みが消えた

「え?」

恐る恐る瞼を開けると

足元で蹲る男の姿があった

驚いて前を見ると

自分に背を向けた男達がいた



「何だお前?」

怒気を孕んだ男の声が響く

「その娘は拙僧の連れだ、返してもらおう」

聞き慣れたその声に鳥居は涙が零れそうになった

「黒田さん!!」

思わず駆け出す

二人の男達を振り切って黒田坊の元へと駆け寄る

黒田坊はそんな鳥居を背後へと隠すと、ぎろりと二人の男達を見据えた

「う……」

途端、後退る男達



二人と一人



分が悪いのは助けに入った男の方だというのに

何故自分達は震えているのだろう

まるで猛獣に睨まれているみたいだと、ごくりと喉が鳴った

「か弱い女子を強引に誘うのは良くないぞ……拙僧が教授してしんぜよう」

黒田坊は普段の口調で男達にそう言うと、ゆっくりと畏を膨らましていった

「ひ、ひえぇぇぇぇぇ」

途端男達は何か恐ろしいモノでも見たような恐怖に歪んだ顔をしたかと思ったら

情けない悲鳴を上げて逃げて行ってしまった

その様子をポカンと見守っていた鳥居は黒田坊の声に我に返った

「大丈夫だったか?」

心配そうに見下ろしてくるその瞳

両肩を大きな手で掴みながら覗き込んで来るその顔に、強張っていた心が安堵で緩んだ

途端、ぽろりと涙が零れた

「な、夏美?」

それを見ておろおろと狼狽える黒田坊

驚き目を瞠るその男の懐に



ぎゅっ



鳥居は思わず抱きついていた

「恐かった」

ぽつりと零れた彼女の心

それを聞いた黒田坊は驚いていた顔を歪ませると

「すまん」

そう一言だけ言って、彼女の体を優しく抱き締めるのであった



その後

二人の初デートは上手くいったのかは二人だけの秘密



「あれ〜二人とも何処行っちゃったんだろう?」



そして

事の成り行きを見守っていた男は

二人を見失い閉園時間まで探し回っているのであった



「リクオ様〜ソフトクリーム買って来ましたよ〜♪」



これもまたデート?





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