一通りアトラクションを回った鳥居と黒田坊は遅い昼食にありついていた
「は〜さっきのアレ楽しかったですね〜♪」
あむあむとハンバーガーを頬張りながら鳥居は上機嫌で隣の黒田坊に話しかける
「ああ、そうだな」
対する黒田坊もそんな鳥居に笑い返していた
ここまでは何とか大丈夫だな
黒田坊は目の前で話しかけてくる鳥居に相槌を打ちながら、ちらりと脳裏でリクオが立てた計画を反覆する
なんとか昼食まで行ったぞ、この後は……
「夏美」
「はい?」
「次はここへ行こうと思うのだが?」
黒田坊は忠実にリクオの立てた計画を実行に移すべく隣の少女に提案した
黒田坊が指差した場所――
そこには小さな白いお化けの絵と血文字でこう書いてあった
『ホラーハウス』
と――
キャーーーーーー
たまぎる悲鳴
どんよりとした空気
非常用の明かりだけが灯る薄暗い通路
遊園地の定番中の定番
男ならとりあえず彼女と行っておきたいスポット
怯える彼女を優しく助ける強い男を演出できるその場所で
黒田坊は一人溜息を吐いていた
リクオ様は何故こんな所を提案して来たのだろう
薄暗く狭い通路を歩きながらふとそんな事を思ってしまう
確か主は「ここなら二人の距離もグンと縮まるから!」と自信満々におっしゃっておられたが……
しかしこの状況でどうやって親密になれというのだ?
黒田坊は胸中でそう呟きながら首を傾げていた
黒田坊の視線の先には
数歩先を鳥居夏美が歩いていた
「わあ〜これリアル〜!あ、黒田さんこれ、これ見てください凄いですねぇ〜」
暗くて細い道もなんのその
普段清十字団で毎回妖怪の噂やら怪談話を聞かされ
挙句の果てには本物の妖怪に襲われた事もある彼女
こんな陳腐な作り物のお化けでは動じないらしい
物珍しそうに辺りをキョロキョロと見回しては、きゃいきゃいと楽しそうにはしゃいでいた
「あ、ああ」
黒田坊は内心がっくりと項垂れる
昨夜リクオと一緒に調べた事は何だったのかと肩を落としていた
深夜、主と一緒にコンビニまで向かい探しに探して見つけたとある雑誌
そこに載っていた『男の選ぶデートスポット』という特集を参考にして計画を練ったのだが……
リクオ様
『女の子は恐いものが嫌い!お化け屋敷で恐がる彼女を男らしく介抱してポイントゲット』作戦は失敗に終わりそうです……
今日日の女子中学生は難しい、と黒田坊は徹夜で策を練ってくれた主へと胸中で謝罪するのであった
その頃――
こっそりと同じお化け屋敷に忍び込み黒田坊の後をつけていたリクオも
「う〜んさすが鳥居さん、やっぱり清次君の部活の影響かな〜」
あははは、と乾いた笑顔を浮かべながら頭をぽりぽりと掻いていた
「リリリクオ様〜お化けですお化け〜〜」
「あ〜はいはい、君も一応妖怪なんだからその位で恐がらないの」
背後では作り物のお化けの人形に過剰反応するつららの姿があった
さて、リクオの計画してくれた『ラブラブどきどきデート大作戦』は程良く成功し程良く失敗に終わっていた
「リクオ様、この後はどうなるのですか?」
この尾行を何気に満喫しているつららが、わくわくと瞳を輝かせながら物陰に隠れていたリクオへと聞いてきた
その言葉にリクオはつつ〜と冷や汗を流す
「リクオ様?」
「あ、いや……その」
どうしたのですか?と小首を傾げて見下ろしてくる下僕にリクオは狼狽し始めた
「ええ〜と、そのなんていうかその……」
「はい!?」
リクオは頭をぽりぽりと掻くと、手に持っていた手帳をつららの顔の前で開いてきた
そこに書かれている内容をまじまじと見つめるつらら
「あの……これって?」
「うん、無い」
「は?」
「だから無いんだってば」
リクオの言葉通り開いた手帳のページは真っ白であった
「ええ?」
「いや〜さっきのお化け屋敷で上手く行く予定だったんだよね」
まさかあんな展開になるとは思わなかった、とあははと乾いた笑顔を作っていた
その言葉につららは押し黙る
無言で見つめ合う二人の間をひゅうっと冷たい風が過ぎて行った
さて、リクオの計画が無くなってしまった黒田坊はというと――
激しく動揺していた
こ、これからどうすれば……
既に頭は真っ白
半分白目を剥き冷や汗をだらだらと流していた
「黒田さん?」
そこへ鳥居が訝しげに顔を覗きこんできた
はっと我に返る黒田坊
「い、いや……なんでも無い!」
まさかこの後の予定が分らないとは言えず黒田坊は慌てて首を振った
「そうですか……あの」
黒田坊の返事に鳥居はほっとしたのも束の間
何故かもじもじとしながら黒田坊を見上げてきた
「どうした?」
そんな彼女に黒田坊は首を傾げる
「あ、あの……ちょっとトイレに」
鳥居はそう言うと顔を赤くしながらさっと向きを変え、恥ずかしそうに走って行ってしまった
その様子をポカンと見ていた黒田坊は……
「厠か……」
ぽつりと少しだけ安堵した表情で呟いていた
うろうろうろうろ
遅い!
黒田坊は先程からベンチの前でうろうろとしていた
鳥居がお手洗いに向かってから既に20分
用足しにしては遅いと思える時間が過ぎていた
黒田坊はもしかしたらと思い、大人しく待っていたのだが
しかし、もしそうならそれで構わないが
もし
もし別の理由でここに来れなかったのなら?
と内心冷や汗を流していた
それで無くとも色々とトラブルに巻き込まれやすい娘なのだ
ここは張り手の一つも貰っても確認した方が良いと、黒田坊は意を決すると急いでトイレへと向かうのであった
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