何かが変わったということは確かに感じているのだ。が、気持ちというものがどうも明瞭にならない。
つららとこうして二人で過ごしていて、リクオ自身、そういう方面の気持ちがわからないのである。
自分はつららをどう思っているのか、どうしたいのか、わからないのである。
我ながら情けないと思ってしまう。
けれど。
「………散歩、行くか」
月見がてら。そう言って盃を置いて立ち上がると、リクオはつららに言った。
「あ、じゃあ私これ片づけておきますね」
いってらっしゃいませと笑顔になるつららに、リクオは溜息を吐いた。
「つらら」
「へ?」
何言ってるんだお前、と言わんばかりに溜息を吐いて自分のことを見てくるリクオに、つららは間の抜けた声を出した。
これは片づけてはならなかったのだろうかと、そんな的外れなことをリクオを見つめながらこの時の彼女は考えてる。
それ故返ってきた返事はつららにとっては想定外のものになった。
「おめーも行くんだよ」
羽織を肩にひっかけながらリクオは廊下に出、つららに背を向けた。
どんな表情をしているのかはリクオの後ろにいるつららにはわからない。
リクオの言葉を聞いたつららは一瞬、そう言う彼の背中をぽかんと見上げていた。
―――しかしすぐに、瞳を輝かせる。
「はい!」
秋の風が心地よかった。
月が淡く、歩く道を照らして出してくれている。街灯の無い中でも提灯を持たなくて良い日は珍しかった。
やはり満月だからであろうか。
「綺麗ですね」
「ああ」
見下ろせば、つららと目が合った。
目の合ったつららは満開の笑顔で微笑んでくれる。
そんな彼女から意識して目線を逸らし、今一度月を見上げたリクオは何とも言えぬ顔で頭を掻いた。
自分がつららをどう思っているかはわからない。
そしてそれをわかる日が来るのか到底見当もつかないのは、無論今がこんな気持ちだからだ。
「ほんとに綺麗ですねっ」
「ああ。……何回も言うなよ」
リクオは笑った。
―――けれども一緒に隣を歩いてくれるこの側近はリクオにとって、思わず傍に置いておきたくなるような、そんな柔らかな安堵をもたらしてくれるかけがえのない存在なのであることはきっと間違いないのであろう。
Fin.
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