「おや、若様

 よかった

 落とし穴から無事に出られたんですね」



「なんだ、つまんないの

 自分で作った罠に嵌って醜態さらすあんたを笑ってやろうと思って、せっかくここまできたのにさ」



そう言ってにこやかに笑う桜と、妖艶に微笑む雪麗は、美男美女のお似合いの夫婦で、大変絵になる

だが、そんな二人もリクオにとってはもはや悪魔にしか見えなかった



「あっ、あんたらなぁ〜

 もう、いい加減人の恋路を邪魔すんなよ

 あいつも俺ももう成人してるんだぜ

 まったくなんでこんなに俺が氷麗に近づくのを嫌がるんだよ?

 特に夜!」



そんなリクオの質問に、眉間に思いっきり皺を寄せた雪麗はきっぱりと答えた



「顔!」



「へっ…顔!?」



「そう!その顔がとにかく気に食わないのよ!!」



そんな雪麗の言葉にリクオは心底驚いた

何故ならば、人それぞれ好みはあるだろうが、世間一般の目から見たリクオは、美形の部類に入ると評価されていたからだ

これまで不細工だなんて言われた事などないし、女性にもいつもモテた

その為、雪麗の言葉はリクオに結構な衝撃を与えた

しかし尚も、雪麗は言った



「顔が…総大将に似てるのがヤなのよ

 あんた、鯉伴か若菜ちゃんか、せめてあの小娘に似てればよかったのに…

 よりにもよってあの変態と色違いだなんて、小憎たらしいったらありゃしない」



「てか、顔って…そんなのどうしようもないじゃねえか…



 じゃあ、なら、あんたは?」



そう言って、リクオはほとんんど私怨に近い雪麗の理由はひとまず置いて、話を氷麗の父親の方に振った



「私は雪麗さんに協力してるだけです

 雪麗さんの願いは私の願いですから

 それに…」



「それに…?」



「私はこの女性を手に入れるまで、数百年もの月日を費やしたんですよ?

 君たちぬらりひょんは、私からしてみたら手が早すぎる

 もっと時間をかけてゆっくりと愛を育んで欲しいと思いましてね

 あの娘は私達の大事な娘ですから」



そう言って、彼は隣にいる雪麗に優しい視線を向けにっこり笑った



「っつ〜、だから、何度も言ってるだろ?

 俺は必ずあいつを幸せにしてみせるって!

 一時の気の迷いなんかじゃねぇんだ!!」



「まあ、愛は障害が多い方が燃えるものだしな〜」



「おい、こら、そこの馬鹿親父

 無責任な発言すんな!」



そうしてリクオが額に青筋を浮かべ始めた時、その場にパタパタと慌てた様子の氷麗がやって来た


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