「若様、大丈夫ですか!?
庭に掘ってあった落とし穴に落ちてしまわれたと聞きましたが…
よかった、大きなお怪我はないようですね」
そして、彼女はリクオの無事を確認するとホッと安堵の息をついた
そんな可愛らしい氷麗の様子に、その場に彼女の両親がいることも忘れ手を伸ばしかけたリクオであったが、彼女が次に発した言葉に凍りついた
「まったく、こんなところに落とし穴を仕掛けるなんて困った妖怪もいたものですね!
もし今度犯人を見つけたら、私がビシッと言ってやりますからね!」
憤慨しぷんぷんとその頬を膨らませる氷麗と、笑いをこらえる三人を尻目に、両想いであるはずなのにこんなにもままならぬ自身の恋に、リクオは遠く空を仰ぎ見た
しかしその後、リクオは擦りむいた怪我の手当を氷麗にしてもらうという絶好のチャンスを得た
「若様が傷ついたら、私とても悲しいんですからね」
そしてリクオの怪我の手当てをしながら、伏せ目がちにそう言った氷麗が愛しくて堪らず、リクオは彼女をがばりと抱きしめようとした
だが、そんな彼の手が氷麗に届くよりも前に、彼の顔面には氷がめり込んでいた
「ねっ、言ったでしょ?
”ぬらりひょん”って妖怪は好機は必ず逃さないんですよ」
「このクソガキが〜
油断も隙もないっ」
その場に現れたのは、またしてもリクオの天敵かつ彼の未来の義父と義母(あくまで予定)であった
「ちっ、逃げるぞ
氷麗」
しかしもうこれ以上は我慢できないと、リクオは氷麗を抱きかかえ、忽然と姿を消した
「あっ、ちょっと待ちなさい」
「大丈夫ですよ、雪麗さん
もう手は打ってあります」
「えっ?」
そんな二人を慌てて追いかけようとした雪麗であったが、桜の言葉に動きを止めた
「ピピー」
「うわ〜」
その時、庭から笛の音とリクオの悲鳴が聞こえてきた
そうしてその場に駆けつけた雪麗と桜が見たものは、桜の木に吊るし上げられたリクオとその木の下でオロオロとする氷麗、そして腕を組み渋い顔をした奴良組堅物コンビの黒羽丸と首無の姿であった
「風紀を乱すのは、いくら若でも許しません!
若い頃の総大将のようになってしまうのではないかと、親父も心配しておりましたよ」
「リクオ様、後生ですから、どうか節度だけは守ってください
このままでは鯉伴様のようになってしまいます!」
そんな真面目な下僕たちの言葉を聞きながら、この屋敷には自分の敵しかいないのか、とリクオは心の中で涙した
しかし何がどうしてこのような状況になっているのかも分からず、ただただ自分を心配そうに見上げてくる愛しい女の姿を視界に捕らえ、それでも負けられない闘いがあるのだと、リクオは再びその胸に闘志を燃やすのであった
絶対に幸せにする!
絶対に幸せになる!
雪でも桜でも、じじいでも親父でも、鴉でも生首でも、鈍感天然だけどそこもまた可愛いんだよな〜、氷麗…でもなんでもかかって来い!
絶対に俺は負けないからな!!
そうして桜の花が咲くまでの熱きリクオの闘いは、その激しさを増していったのであった
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