□至福の一時
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『至福の一時』より
“在りし日の二人〜幸福度〜”
彼等の一日は、それこそ
“おはよう”の挨拶から始まる
だが…普通の挨拶ではなかった
偶々、二人別々に寝たこの日
リクオが起きる時刻よりも早く
氷麗は目を覚ました
先ずは自身の身なりを整えてから、
朝餉の準備と昼餉の準備に余念が無い
そして、それらの合間を縫って
リクオを起こしに行く
これが彼女の日課である
リクオの自室を訪れ声を掛ける
恋人になった今となっては、
哀しいことに何故か彼は
素直に起きてくれなくなってしまった
近寄って起こそうとすれば、
布団に引き込まれ抱き込められてしまう
しかも「もうちょっとぉ〜」なんて寝言付きで
そんな彼を頑張って健気に起こす氷麗の姿は
宛ら“新妻”の様であり、
そんな彼女の愛しい恋人は
宛ら“駄目夫”の様であった訳だが…
抱き込められてあたふたと
もがく新妻の氷麗を他所に、
駄目夫のリクオはというと…
頬擦りをしたり手足を絡めたりなどと
やりたい放題である
そんなお決まりの様ないつもの状況に
流石に慣れてきたのだろうか…
何とか脱出した氷麗は優しく
愛しい恋人を揺り起こすのだった
しかし、もう一度布団の中に引き込まれて
抱き込められてしまうのもまた、
彼等の日常である
けれど、今度の彼は先程と異なり
眠たげに目をゆっくりと開き、
寝惚け眼で氷麗を見つめるのだ
そして、蕩けるような満面の笑みで氷麗に
「おはよう、氷麗」と呟き口付けるのだった
二人の周りに華やらキラキラやら
桃色のオーラやらに包まれる中…
しかし、朝の氷麗はしっかりと
「おはようございます、リクオ様
私は、まだ支度がありますので、
失礼しますね?
いい加減、起きないと駄目ですよ??」
などと厳重注意宜しく言い、
さっさと下がってしまうのもまた日常である
リクオはというと
いつもぽかんとしているのだが、
立ち去る際の彼女の頬が真っ赤なのは
知らない事実である
そんなほのぼのとした朝の挨拶から一転…
朝餉はというと、最早戦場である
リクオも氷麗も何とか朝食を済ませ、
学校に毎日通うのが日常で、
毎朝こんな感じであるのだった
登校時は仲良く一緒に歩いて行く
恋人繋ぎをして、隠す様に寄り添い歩く
途中、道行く人々に「仲良いわねぇ」やら
「イチャつくな〜」やら…
様々な声が聞こえてはくるのだが、
リクオは満面の笑顔で無視し、
氷麗は恥ずかしながらも
何処か開き直った様な表情をしている
何故、彼女がこんな表情をするのか…
それは、その様な言葉を聞いたところで、
恋人であるリクオが手を離すことも
寄り添うことも辞めないと、
いい加減悟ったからだった
そんなこんなで一緒に登校する
因みにもう一人の護衛である
青田坊はというと、忙しいせいか…
はたまた、気を遣ってか…は分からないが
一緒には登校しておらず、
気が付いたら学校に居る!?的な感じである
リクオの朝は早い
“良い奴”“立派な人間”を
地で行く昼の彼は、全生徒の学校生活全般が
円滑に進むようにと、自ら率先して働く
日課の様なその行動の裏には、
早起きやら、家の理解やら、
氷麗の様な“手助け”があるお陰なのだが…
いつもの様に細々と学校を駆け巡るリクオと
その手伝いをしている氷麗の光景は、最早…
浮世絵中学校の恒例名物になりつつあるのだ
そんな、慌ただしい朝も過ぎ、
リクオはというと授業中…
氷麗はこの時間帯を最大限に利用して、
青田坊と共に学校内や周辺を昼休みまでに
見回るのである
一緒に居られない時間は、
何故か…ついつい
相手の事を思い浮かべてしまうのは、
最早…いつもの事であり、一応は
考えない様にしていても、
やはりついつい考えてしまうのが彼等である
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