差し出されたその手の意味が分からずに首を傾げた

そんな私にあなたは「鈍いなぁ」と困ったように微笑んだ



あなたのその手が

差し出されたその手が

もしも、もしも私の望んだものであるならば…

その手をとることが叶うのならば…





『どういうわけか三人で』





「なんで、こうなるんだ…」



リクオの呟きは、女の子同士の楽しそうな会話に打ち消され、誰の耳にも入ることはなかった

今、彼の目の前では、少女陰陽師であるゆらと妖精サイズに変化したつららがおしゃべりに夢中になっていた



こうなったのにはわけがある

今を遡ること、数日前

この世界に迷い込んだ人間の子供達を餓鬼から守り撃破した後、リクオとつららは連れだって一度奴良組の本家へと帰った

そしてリクオは、正式に奴良組を継ぐ決心が出来たことを祖父に告げた

そんな時、折良く調査に出ていた三羽鴉たちも本家に帰ってきた

そこで、リクオはこの世界がおかしくなってしまった真の理由を知ることとなった



この世界には東の『ぬらりひょん』に対し、西の『羽衣狐』と呼ばれる大妖怪が存在している

だがどういうわけだか、最近その羽衣狐が乱心しているという

詳しい理由までは分からないが、羽衣狐ほどの大妖怪の乱心ということで、彼女から溢れ出した大量の妖気がこの世界のバランスをくずしてしまっているとのことらしい

そこまで聞いて、ああ、なるほどとリクオが思ったその矢先



「ふむ、そうか、なるほどのぅ

 では、リクオ

 ちょうどいい

 おまえ、なんとかしてこい」



と、ひょうひょうとぬらりひょんが言い放ったので驚いた

なんで自分が…、というかちょうどいいってなんだ!?と思ったリクオであったが



「おまえがこの件を立派に治めたら、正式に三代目をおまえに継がせる

 羽衣狐ほどの妖怪を抑えたとあれば、人間の血の方が勝るおまえでも、幹部連中も文句は言えんだろうて

 それに…」

「それに…?」

「今まで黙っていて悪かったが、わしら一族にはあやつの、狐の呪いがかかっておってなぁ」

「狐の呪い?」



その始めて聞く衝撃の事実にリクオは素っ頓狂な声を上げた

しかし、そんなリクオの反応を意に介することもなく、ぬらりひょんは話を進めた

そして



「ああ、子がなせない呪いだ

 妖とではな」



とカラカラと笑いながら言い放った

一瞬その言葉の意味を理解できずに沈黙したリクオだったが、その意味を理解すると



「はぁ!?」



といきり立った



「なんでまたそんな呪いがかかってるの!

 おじいちゃん、何やらかしたんだよ!」

「まあ、あやつとは昔から仲が悪くてな

 意見の相違と言う奴じゃ

 それに加え、当時あやつの部下共があやつこそがこの世界で一番の美女だと言い張りおったので、わしはわしの妻、珱姫こそが一番の美女だと反論したのがまたいかんかった」



そう言いながらもちっとも反省の様子を見せない祖父を、リクオは半目になりながら、その手に袮々切丸を握りしめ睨んだ



「まあ、待て、リクオ

 何もそんなことで仲たがいしたわけではないぞ」

「うん、まあ、そうだよね」



にっこりと微笑みながら、けれどもその目が笑っていないリクオに臆することなく、ぬらりひょんは語り続けた



「そんなわしらじゃが、なんの因果か互いに同じ時期に同じように人間と結婚してな

 しかもこれもまた同時期に子をもうけてしまったのがいかんかった

 まあ、親ならば当然なんじゃが、互いに互いの息子の方が可愛いと言い争いになった

 そしてそれがあれよあれよと言う間に喧嘩になり、戦争に発展し、最終的には痛みわけという形で、わしは呪いを、あやつは魑魅魍魎の主の座をわしに明け渡すという結果になったのだ」



そう語り終え、さも悲劇の主人公のような顔で深く頷いた祖父にリクオはキレた



「お、じ、い、ちゃ、ん〜」



ずごごごごと人の姿のまま、しかもさわやかな笑顔のまま、恐ろしい怒気を放ち、実の祖父に退魔刀の切っ先つきつける孫にさすがのぬらりひょんも後ずさった

しかしあっさり開き直ると



「じゃから、因縁を清算してこいと言うておる

 でないと、四代目の顔がいつまでたっても見れないからのぅ

 年寄りを馬鹿にするでないぞ

 おまえの想い人なら分かっておるんじゃからな」



そう言い、口の端を吊り上げ笑った



「っつ〜〜〜」



そんなわけで俄然やる気になった、ならざるを得なくなったリクオは、羽衣狐の根城を目指し出発した

もちろん自分と共に行く側近には彼女を指名して



その時、そっと差し出したその手の意味に、鈍い彼女が気付くことはなかったのだけれど


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