「さすがにこの辺りは妖気が濃いですね
リクオ様も常にそちらのお姿ですし」
「ああ、そうだな
けど、なんでおまえはその姿なんだ?」
と、なぜか濃い妖気の漂うこの場所でも妖精サイズのつららにリクオが不満げに問うと
「こちらの方が飛べますし、小さいから敵に見つからずに護衛や偵察が出来るかと思いまして!」
そうペカーと、とてもいい笑顔で彼女は答えたので、リクオは頭を抱えたくなった
これでは口説き落とすどころか、いい雰囲気になることさえ叶わない
今回のこの旅は、リクオにとって三代目を正式に継ぐ、この世界を平和にするという目的の他に、つららの心を手に入れるというもう一つの目的もあったのに
このままじゃ、何も出来ない
しかも自分達が気付いていないと思っているのか、こっそりというには分かりやすすぎる尾行で自分の側近達やその他多くの妖怪がついて来ていた
「あれ、なんでみんなは離れてついてきてるんですかね?
何かの作戦でしょうか?」
そんな彼らを不審に思い、訊ねるつららに
「いや、もうあいつらのことは気にしなくていいんじゃねえの…」
と、リクオは半ば自棄になりながらそう答えた
そしてさらにそんな道中で彼らは思わぬ拾いものをすることとなった
そう、それこそが『ゆら』だったのだ
彼女は何故かこの世界のど真ん中に行倒れていた
前方に倒れている人影を見付けたつららは「あっ」と小さく叫ぶといち早く近寄った
そんなつららに罠だったらどうするんだと、リクオもすぐさま後を追った
しかしそんな風にして発見されたゆらの第一声は
「腹、減った…」
の一言だった
その言葉につららはどろんと元の姿に戻ると、どこに持っていたのか重箱のお弁当を差し出した
そんなつららの行動に最初こそ警戒の色を隠さなかったゆらだが、素直な彼女の胃袋は盛大な腹の音を隠しきれなかった
照れ隠しにぶっきらぼうにつららから重箱をひったくるようにして奪うと、背に腹は変えられないと鬼気迫る勢いで食べ始めた
しかしそんな勢いで食べていれば、当然といえば当然の結果、彼女は喉をつまらせた
そんなゆらに、リクオは嘆息し呆れながらもお茶を差出してやり、つららは慌ててその背をとんとんとさすってやった
そしてどうにか落ち着くと、そこでやっとゆらはそんな二人を交互に見つめ
「すまんな、助かったわ、ありがとう
あんたら妖怪やのに、親切なんやなぁ」
と、素直に礼を言った
「私は、花開院ゆらや
こう見えても陰陽師の端くれなんやで」
「「陰陽師?」」
「なんや、あんたら知らんのか
『陰陽師』は悪い妖怪を滅する力を持った者のことや
まあ、滅するだけじゃなく、人間界に迷い込んだ無害な妖怪をこの世界に送り返したりとか、他にも色々やってるけどな」
「で、その陰陽師がなんでこんなとこで行き倒れてたんだ?」
そう聞くリクオに、遠くを見つめ乾いた笑みを浮かべると、ゆらは一通の手紙を差し出した
『ゆらへ
これは修行だ
最近様子のおかしい妖の世界を探って来い
というか、平和にして来い
おまえなら出来る
なぜならおまえは才あるものだから…
お兄ちゃんは信じているぞ
まあ、詳しいことは13代目にでも聞け
兄は色々忙しいのでな
では、健闘を祈る
兄より』
「って、アホかぁ!
あのクソ兄貴!!
あいつこそ、いつか必ず滅したる!!!
しかも秀元は秀元で『ぬらちゃん探して、事情を話せば協力してくれるで』って言うたけど、こんな広い世界じゃ、そのぬらちゃんことぬらりひょんの住んでるとこにたどり着く前に飢え死にするっちゅう話や!
自分は死んでるからって、いい加減なこと言いよってから!!」
そう、雄たけびを上げるゆらに
「なんだか、大変そうですね」
「そう…だなぁ」
と、リクオとつららは同情しながらも、彼女の事情が分かったので「共に行こう」と声をかけた
そうせざるをえない状況にリクオは一人、内心で歯噛みしながら
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