「わっか〜、わっか〜♪」

軽快な高い声が庭に響く

つららはふんふん♪と楽しそうに鼻歌を歌いながら洗濯物を干していた

「くすくすくす」

「へ?」

殆どの洗濯物を干し終わった頃、背後から微かな笑い声が聴こえてきた

その声に、つららは驚いて振り返る

「ひ、ひえぇぇぇぇぇ!リクオ様、いつからそこに?」

振り返った先に思いも寄らない人物が居て、思わず叫んでしまった

「ん?つららが洗濯物を干し始めた時からだよ」

リクオはそう言うと、悪戯が成功した子供のような笑顔を向けてきた

その言葉に、つららの頬はみるみる内に真っ赤に染まっていく

どこかで庭を眺めていると思っていたリクオが、あろう事か自分が洗濯物を干している姿を見ていたことに驚きつららは慌てた

しかも・・・・

「な、なぜ此処に?ていうか、さっきの歌・・・・」

「うん聴いてたよ」

爽やかに頷くリクオ

先程の歌を聴かれていたと理解したつららは、驚きと羞恥で顔を真っ赤にしながら叫んだ

「わ、わ、忘れてください〜〜!!」

「あはは、もう聴いちゃったし」

「うわ〜ん恥ずかしいです〜〜!!」

つららは恥ずかしいと手足をバタバタさせて暴れだした

その拍子に



ガタン



振り上げたつららの腕が運悪く物干し竿に当たってしまった

途端ぐらりと物干し竿は揺れ、その支えごとつららめがけて倒れてきてしまった

「きゃっ!」

「危ない!」

つららとリクオ、二人の声が重なる

続いてガシャンガシャ〜ンと盛大な金属音が響いた



「つらら、大丈夫?」

盛大な音が鳴り止み暫くすると、衝撃に耐えるように固く目を閉じていたつららの耳に心配そうな声が聞こえてきた

恐る恐る目を開くと、目の前にはリクオの顔

思わず視線を逸らすと、リクオの腕や体がやけに近くに見えた

そこではた、と気づく己の現状――



つららの体はリクオの腕の中に収まっていた



「うわ、わ、若!」

つららは驚いて身を引こうとしたのだが、そのせいでぐらりと体制が崩れる

「おっと危ない」

リクオはそう言うと、つららの背に回していた腕に力を込めて引き寄せた

つららが身を引こうとしたことでバランスを崩してしまったようだ

辛うじてつららの体を支えることに成功したリクオは、ほっと息を吐く

「もう、せっかく助けたのに転んだら意味無いじゃないか」

そう言ってくすりと苦笑を零した

「え?え?」

混乱する頭で先程のことを思い出す



私、物干し竿を倒してしまって、それでリクオ様に助けていただいたの・・・ね



ようやく事の成り行きを理解すると、つららは体の緊張を解いた

「うう、すみません」

「いいんだよ、これくらい」

何故かしょんぼりと項垂れながら謝るつららに、どうしたのかと首を傾げながらもリクオは大丈夫だよと優しく微笑んだ

しかし、つららは下げた頭を上げる処か、いじいじと人差し指同士をくっつけはじめてしまった

「ううう、でも、でも、いつもこんなドジばっかりで・・・京都でも人質に取られてリクオ様にご迷惑をおかけしてしまったし・・・・ほんとにすみません」

そう言って、くすんと鼻を鳴らした

そのつららの言葉に、リクオは慌てて頭を振る

「そんな・・・迷惑だって思ってないよ、僕の方こそごめんな、怖い目に合わせて」

「な、何をおっしゃいます!リクオ様は悪くありません!!悪いのは土蜘蛛です」

がばっと顔を上げて真剣な表情で言うつららに、「ありがとう」とリクオは笑顔を向けた

「でも・・・あの時助けたのって、夜の僕なんだけどね」

妖怪だったから助けられたんだよね、とリクオはそう言うと寂しそうな、悲しそうなどちらとも取れる表情をして目を逸らしてしまった

「リクオ様?」

そんなリクオに、つららはどうしたのかと心配そうに顔を覗き込む

リクオは覗き込んでくるつららに、ちらりと視線を寄越すと

「人間の時の僕は、この位のことしか出来ないから・・・」

妬けちゃうなぁ、と恥ずかしい本音は胸中だけで吐露すると、つららの顔をじっと見つめた

「リクオ様?」

そのリクオの視線につららは首を傾げる

「つらら、ちょっとだけ・・・いい?」

リクオはそう言うと、つららをそっと抱き寄せた

「へ?」

つららは突然起こった出来事に、ただ只目を丸くして固まる他無かった


[戻る] [頂戴トップ] [次へ]