「大丈夫かな?」



そわそわ そわそわ



先程からリクオは柱の影からこっそりと様子を伺いながらぶつぶつと独り言を言っていた

「大丈夫ですよ」

心配そうに呟くリクオに、隣で同じように様子を伺っていたつららは笑顔でそう答える

「でも・・・・」

リクオは今になってだんだんと自信が無くなって来たらしい

弱腰になり眉根を下げて俯いてしまっていた

「大丈夫です!リクオ様が一生懸命お選びになった物ですからきっと気に入ってくださいますよ!」

この雪女が保障いたします!と、どんと胸を叩いてつららはリクオにそう言い聞かせた

「そうだよね!」

リクオはつららの力強い説得に、今まで意気消沈していたのが嘘のように瞳をキラキラさせて顔を上げる

そして、いつもの悪戯っ子のような好奇心旺盛な瞳で先程と同じように様子を伺い出した

熱心に見つめるその視線の先は――



若菜の自室



その部屋に先程つららと二人である物を置いてきたばかりだった

二人で柱の影に隠れて今か今かと目的の人物が現れるのを待っていた

そして暫くの間様子を見ていると廊下の向こうから誰かが歩いて来た

「来た!」

リクオは小さな声で叫ぶと柱の影につららと一緒に隠れる

パタン

部屋の襖が閉じる音が聞こえた瞬間、慌てて部屋の前まで小走りで向かい中の様子を覗う

数センチ開けた襖の隙間から見えたのは若菜の背中だった



「あら?」

自室に戻った若菜はその卓上にちょこんと置かれている物体に気づいた

ゆっくりと腰を下ろし、それを手に取ってまじまじと見つめる

右へ左へと傾けながらそれを暫くの間眺めていた若菜は



くすり



嬉しそうに口元に笑みを作った

そして花が綻ぶように笑う

「あの子ったら・・・・」

それはそれは嬉しそうに目を細め

それはそれは幸せそうにぽつりと呟いたのだった



「ありがとう」



と――



ソレが置かれていた所にはもう一つ

色とりどりのクレヨンで『いつもありがとう』と記された画用紙が置いてあった



「やった!お母さん喜んでくれたよ!!」

「ええ、良かったですねリクオ様!」

中を伺っていた二人は、きゃいきゃいと両手を上げて喜び合う

若菜の部屋の前だという事も忘れて喜ぶ姿は本当に嬉しそうだ

「ありがとう雪女」

「いいえ〜私も嬉しいです」



にこにこにこにこ



お互い嬉しさで零れ落ちる笑顔を見せ合いながら、その場を後にするのだった



その後――



母の日を迎えた若菜の頭には

それからずっと

小さなカーネーションの髪飾りが添えられていたそうな



母の日に感謝の気持ちを込めて



Happy Mother's Day





おまけ→


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