「あら雪女ちゃん、待ってたわよ」

うふふ、と意味ありげに微笑む若菜に、つららは息を切らせながら「す、すみません」と頭を下げる

そして――

「若!リクオ様、探しましたよ」

はあ、はあ、と肩で息をするつららに若菜はまたくすりと笑みを零すと

「あら良かったじゃないリクオ、雪女ちゃんが見つけてくれたじゃないの」

そう言ってリクオをつららの方へと向き直させる

リクオはバツが悪そうに下を向いたままであった

そんなリクオにつららは眉根を下げ「すみません若、私が見つけるのが遅くなってしまったばっかりに」と謝った

そんなつららにリクオは

「そうだよ、雪女はいっつも鈍臭いんだよ!!」

と叫ぶと、またバタバタと走って逃げてしまった

「あ、若!」

そんなリクオの後姿につららは手を伸ばすがすぐに止め、ぱたりと伸ばしていた腕を下ろしてしまった

そしてしょんぼりと項垂れる

「ごめんなさね、リクオへそが曲がっちゃったみたいなの」

「いえ、私が悪いんです」

「ふふ、少しすれば落ち着くでしょう、夕飯の時にでも呼びに行って頂戴ね」

若菜はそう言うと、降ろしていたスーパーの買い物袋を拾い上げ「後はよろしくね」と一言告げると母屋の方へと入っていってしまった

一人残されたつららは、リクオの走って言った場所を寂しそうに見つめていた





なんだいなんだい雪女なんか!



自室に戻ったリクオは、部屋の真ん中にちょこんと座りながら手の中の物を睨みつけていた

そこには丸められてリボンの付けられた画用紙があった

それは、リクオの手の中でくしゃりと歪んでいる



今日は誕生日だって言うから一生懸命描いたのに!



そう言ってリクオはぎゅっと画用紙を握りつぶしてしまった

「う・・・」

それと同時にリクオの瞳からポタポタと大きな雫がこぼれ始める

声を押し殺し小さな肩を震わせてリクオは泣き始めた

「リクオ様?」

その時、どこか躊躇ったような遠慮がちの声が襖を隔てて聞こえてきた

その声にリクオはびくりと肩を震わせる

つららの声だ

リクオは慌てて涙を袖で拭うとぶっきらぼうに返事をした

「なんだよ」

「あ、あの夕飯のご用意ができましたので・・・その・・・」

おろおろと言いながら、そっと襖を開けて中を伺うつららと目が合った

「な、なんだよ」

リクオは涙を見られたかもという羞恥に、ぷいっとそっぽを向く

「先程はすみませんでした、私が鈍臭いばっかりに・・・」

そんなリクオに気づかず、つららはしゅんと項垂れながら謝ってきた

悲しそうに落ち込むつららに、リクオもなんだか可哀相になってしまった

ちらりとつららを見上げると、ちょいちょいと手招きしてつららを呼ぶ

「なんでしょう?」

つららは誘われるがままに部屋へと入ると、リクオの横にちょこんと座って首を傾げた

幼い子供から見てもその可愛らしい仕草に、リクオは知らず頬を染めながら口をへの字に引き結んでつららの目の前にある物を差し出した

それは、先程リクオが握りつぶしていた丸められた画用紙だった

「え?」

つららは目の前に差し出された物体を見て目を丸くする

そして、リクオと手の中の画用紙を交互に見つめながら、意味がわからないと首を傾げていた

そんなつららにリクオは痺れを切らせたのか、早口で説明してやる

「ゆ、雪女が今日誕生日だって聞いて・・・だから、やる!」

そう言うや否や、リクオはつららに無理やりその画用紙を握らせると、ほっぺを真っ赤に染めてぷいっと横を向いてしまった

そんなリクオの言葉と姿に、つららは「え?」と呆気に取られていたのだが

次の瞬間――



「ありがとうございます」



と可憐な花が綻ぶ様な笑顔をリクオに見せた

その美しい笑顔に、恥ずかしくてそっぽを向いていたリクオは、ぼおっと一瞬見惚れてしまう

暫くそうしていたが、はっと我に返るとまたしてもほっぺを真っ赤に染めて

「だ、大事にしろよな!」

と恥ずかしそうに言いながら、また横を向いてしまった

そんなリクオにつららは、にこにこにこにこ笑顔のまま



「はい!家宝にいたします!!」



と手の中に握られた画用紙を宝物のように抱きしめながら頷くのであった







つららに贈った画用紙に描かれていたのは――

仲良くつららと遊ぶ楽しそうなリクオの笑顔と



「いつもいっしょにあそうぼうね」



という言葉が色とりどりのクレヨンで描かれていた



1月11日 つららの誕生日



ぼくから君へささやかなプレゼントを






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