すうっと眩い光が消えると、リクオ達は元居た場所へと帰ってきていた

「はっ、六花は?陸之助さんは?」

眩ゆい光に目を閉じていたつららは、光が治まると辺りをキョロキョロ見渡しながら二人を探した

「どうやら戻って来れたみたいだな」

リクオは辺りを見回しここが見慣れた蔵の中だと気づくと、ふうと安堵の息を吐いた

「夢・・・だったのでしょうか?」

つららは不思議な気分で、ぼんやりと蔵の中を見ながらぽつりと呟く

「そうでも無いみたいだぜ」

その呟きを否定してきたのは隣に居るリクオだった

ほら、と言いながらつららの目の前に差し出してきたのはあの硯箱だった

差し出されたその箱の中を見たつららは、思わず目を見開いて中の物をまじまじと見つめてしまった

その中には――



六花に貰った”母の形見の櫛”があった



「これ・・・」

つららははっとして、懐を探し始める

そこに忍ばせておいた筈の櫛は無かった

そしてその櫛の側には手紙が添えてあった

その手紙には一言



ありがとう



と記されているだけであった

この硯箱がどのような経緯でここへ保管されていたのかは今となっては分からないが

ただ、今分かることはこの櫛は紛れも無くあの六花と名乗った姫がつららへと贈ったものであるという事だけであった

それだけで良かった

それだけで十分だった

ただ気がかりな事といえば



「あの二人は幸せになれたのでしょうか?」



つららは二人の事を思い出しながらぽつりと呟いていた

「大丈夫だろ、あの二人ならな」

つららの言葉にリクオは何てこと無い、という感じであっけらかんと答えた

その言葉につららは目を丸くしてリクオを見上げる

「まあ、あの姫さん相手じゃ、あいつも大変だけどな」

その気になりゃぁ駆け落ちとかしたりするんじゃねえの?ととんでもない事を言いながらリクオはおどけて見せた

「もう、リクオ様」

そんなリクオにつららは苦笑しながら言ったのだが

リクオは意外にもまじめに言っていたらしく、まともに取らないつららにぶすっとした口調で告げた

「俺は本気なんだけどなぁ」

「え?」

「どっかの側近が、自分と姫さん重ね合わせて助けたくなっちまった気持ちも、陸之助の気持ちも分かるって言ってるんだよ」

「そ、それって・・・・」

「まあ、俺の場合周りに文句なんか言わせねえけどな」

「り、リクオ様?」

つららの手を取り、熱い眼差しで詰め寄ってくるリクオの視線につららは頬を真っ赤に染めながらあわあわと慌てだした

「このまま祝言挙げるか?」

しかも、リクオはつららの身体をまじまじと見つめていたかと思うと、にやりと笑いながらそんな事を言い出した

「ええ!!」

たまげたのはつららで、はっと我に返り自身の身体を見下ろし絶句した

つららの着ていたのは、泥や埃で薄汚れてはいたが雪のように真っ白で鶴や亀などの縁起物の刺繍が施された正真正銘の



白無垢だった



己の今の姿を認識した途端、急に浮遊感が身体を襲いつららは小さく悲鳴を上げた

思わず見上げると、先ほどよりも近くにリクオの顔があった



抱き上げられている!



と理解した時には既に遅く、畏れを発動させたリクオは、いつの間にかとっぷりと日が暮れて暗くなった庭をひょいひょいと抜けていく

途中、つららとリクオが居ないと大騒ぎしている本家の側近達の横を通り過ぎながら、リクオは自室へ続く廊下の先へと消えて行ってしまった



「とりあえず、初夜が先だな」

「り、りりりリクオ様!!」



その後、主従関係も年の差も何もかも全て飛び越えて、二人がめでたく結ばれたのはまた別の話






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