真っ暗な森の中、冷たい冷気が巨大な鬼を襲う

鬼は堪らず巨大な腕を振り上げながら、吹雪を吹きかけてくるつららから逃げた

「待ちなさい!」

森の中の行き止まりに鬼を追い詰めたつららは、止めとばかりに吹雪を吹きかけようとした

が――

突然ぐわっと突進してきた赤鬼につららは驚き、あっという間に捕まってしまった

苦しそうにもがくつららに、六花は真っ青になりながら叫んだ

「つらら!!」

六花はつららの元へ駆け寄ろうとしたが陸之助によって止められてしまった

「姫!」

「離せ、離せ!つらら、つらら、鬼よつららを離せ!目当ては妾であろう?」

必死に訴えかけてくる六花に、つららを手の中に収めた赤鬼は残酷な瞳をギョロリと六花に向けるとニタリと笑った

「くくくく、ああ、そうだったそうだった、お前も一緒に来い!」

そう言うや否や、赤鬼は六花に向けてもう片方の手を振り降ろしてきた



その時――







六花に振り降ろされた鬼の手は、その腕ごと地面に落下していった

「ぎ・・・ぎゃあああああああああ、俺の腕があぁぁぁぁぁ!!」

何が起こったのかと、赤鬼は斬られた腕を見下ろすと己の腕が肩から無いことに気づき、続いて猛烈な痛みに悲鳴を上げながら転げ回った



ガシリ



「つららに華ぁ持たせる気ぃだったんだがなぁ・・・・」

叫ぶ赤鬼の背後から、恐ろしい程の強い力で頭を鷲掴みながらリクオが現れた

その声音は恐ろしいほど低く冷ややかだ



ぞくり



その声に赤鬼は戦慄した

「リクオ様!」

「ひっ」

ゴキゴキと赤鬼の頭蓋骨から鈍い音が聞こえてくる

その痛みに赤鬼は恐怖し、全身から氷のように冷たい汗を噴出していた

「き、貴様ぁ・・・何者だぁ?」

その恐怖に絶えかねた鬼は、ぶんっとつららを掴んだ腕をリクオに向かって振り上げながら叫んだ

リクオは軽い身のこなしで鬼から離れると、優雅な弧を描いて地面に着地する

そしてにやりと口角を上げると

「つらら」

と静かに言った

「は、はい」

つららはリクオの声に己のやるべき事を理解し、畏れを発動させる

ふわりとつららの身体が煙のように揺らいだかと思うと、リクオの体に絡まり始めた

その次の瞬間、リクオの姿が変貌する

つららを鬼纏ったリクオは、羽織っていた着物も手に持っていた弥々切丸の姿も変わっていく

全身に雪女の畏れを纏い、氷の波紋を纏った弥々切丸を構えると目の前で恐怖に顔を歪める鬼に向かって高く跳躍した

突然変化したリクオに驚いていた鬼だったが、飛び込んできたリクオに気がつくと残った腕で反撃しだした

ひらり、ひらりと鬼の攻撃を交わしながら、リクオは徐々に鬼との間合いを詰めて行く

そして、一瞬の隙をついて鬼の懐に飛び込んだ

「こ、このおおおおおおお」

「ふっ、お仕置きだけで済まそうと思ったんだがな・・・・」

リクオはそう言いながら、憎悪に顔を歪めてリクオを睨みつける鬼へと弥々切丸を振り下ろした



鬼纏  雪の下紅梅



「俺の女に手を出した罰だ」

リクオが静かに言うのと同時に、赤鬼の身体は氷の塊となった

「ああそうだった、俺の名は奴良リクオ、百鬼夜行を率いる妖怪の主だ・・・・て言ってももう聞こえないか」

ガラガラと崩れ落ちる鬼の成れの果てを見つめながら、リクオは皮肉げに呟いていた





すうっと鬼纏いを解除すると、つららがふらつく足でリクオの元に姿を現した

崩れ落ちそうな身体を支えてやりながら、リクオは「大丈夫か?」とつららの顔を覗き見る

つららはリクオに凭れながら「はい、大丈夫です」と微笑み返した

その姿に安堵していると



「つらら!リクオ!!」



遠くの方から六花の声が聞こえてきた

見ると、慌ててこちらへ走って来るのが見えた

「六花・・・良かった」

「よくやったな」

六花の無事な姿を見てほっと胸を撫で下ろすつららに、リクオは優しい眼差しを向けながら労う様につららの頭を撫でてやった

すると、リクオとつららの身体が光り始めた

「え?」

「なんだ?」

淡い光を発していた光は、みるみる内に二人を包み込み輪郭をぼやけさせていく

「な、なんじゃ?」

「こ、これはあの時の・・・」

ようやく二人の元へ辿り着いた六花と陸之助は、突然起こった光景に驚き目を瞠った

そして――



光が二人を包んだかと思うと、一瞬のうちにその光は消えてしまった

しかもリクオとつらら、二人を道連れにして

後に残ったのは、ただ呆然とその場に立ち竦む六花と陸之助の姿だけであった


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