リクオ13歳
学校が休みの日、僕は宿題を早めに済ませて縁側に出ていた
そこで偶然見つけてしまった光景に昔の記憶がフラッシュバックする
ああ、何度か見た光景だな
そんな光景を見ながら、頭のどこかで冷静に呟く自分がいた
僕の視線の先には、仲良く荷物を運ぶ二人組みが廊下を歩いていた
昔からの付き合いが長いせいか、二人は仲良く笑い合いながら廊下を歩いていく
丁度僕の場所からは死角になるそこは、二人には僕が見ているなんて気づきもしないだろう
ぼんやりとそんな事を考えていたら、片方がいつもの如く何も無いところで躓いたのが見えた
「雪女!」
途端響いてくる叫び声
「きゃっ」
同時にバサバサと何かが落ちていく音と小さな悲鳴
その後は――
重なり合う二つの影が僕の目に写っていた
ざわり
何故だか心が騒ぎ出す
あれは事故だ
偶然だと頭では判っているのに
心が理解してくれない
あの二人は別に付き合っているわけでもない
ただの側近同士、同じ主を持つ仲間
そんな事は昔からよく解っている
でも・・・・
この、ざわつく心は一体何なのか?
この、苛立つ気持ちは一体何なのか?
あの二人は何故ああも仲が良いのか?
他にも妖怪は沢山いるだろう
黒田坊だって、青田坊だって、河童だって、毛倡妓だって・・・・
そう毛倡妓・・・・お前にはあの女がいるじゃないか
首無
なのになんでつららといつも一緒にいるんだよ?
いけないよ、気の多い男は嫌われるよ
だから
僕はそこまで考えると、徐にそこから動いた
もちろん向かう先は決まっている
足早に辿り着いたそこでは、未だ抱き合っている首無とつららがいた
僕は無表情のまま首無の腕からつららを引き剥がすと己の腕に閉じ込める
「リクオ様?」
驚いて見上げてきたつららの事はとりあえず後回しにして僕は目の前の男を見据えた
首無は最初何が起こったのか判らなかったみたいだったけど、僕がつららを腕の中に抱き締めているのを見てうっすらと笑った
それはまるで――
ようやく動いてくれましたねって言っているように見えた
そんな全てを解っているような首無の微笑みに釈然としないものを感じた僕は
彼を見据えていた瞳の色を、茶から緋色のそれへと変じさせて睨みつけた
「首無」
「はいリクオ様」
「これは俺の雪女だから」
「心得ております」
昼のそれから夜のそれへと変じた俺の言葉に、首無は嬉しそうに頷き頭を垂れると、そのままくるりと踵を返して去って行ってしまった
途中、廊下の角を曲がる時一瞬だけ振り返った首無の口元が笑っていたように見えたのは気のせいかも知れない
そして己の腕の中で、もぞもぞと動く女に視線を移した
「り、リクオ様?」
見上げてくる女の頬は真っ赤に染まっていて
瞳も何故か潤んでいた
ああ、恥ずかしがっているのか
わかった瞬間、何故だか嬉しくなって
そして
愛しさが込み上げてきた
ああ、こいつは俺の雪女だ
誰がなんと言おうとも
俺はそう胸中で呟いて
そして女を束縛する言葉を耳元で囁いてやった
ねえ、俺だけを見ていてよ
て――
昔からの切なる願い
おまけ→
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