「あの・・・リクオ様」

夕焼け色に染まる放課後の教室

及川つららは、おずおずとリクオに声をかけてきた

今は殆どの生徒が帰り人の数もまばらだった

「どうしたのつらら?早く行かないと遅れちゃうよ」

日課である清十字探偵団の集まりに参加するべくリクオが催促すると

「その・・・少し遅れて行きます」

つららは申し訳なさそうに眉根を寄せて言ってきた

「どうしたの?」

「そ、その・・・」

リクオが聞き返すと、つららは言い辛そうに口篭る

リクオは不思議そうに首を傾げていたが、ふと視線を落として「なるほど」と納得した

つららが後ろ手で隠すように持っている白い紙

リクオは「またか」と溜息を吐いた

「わかったよ、じゃあ先に行ってるから」

リクオはそう言うと教室を出て行った

「ふぅ・・・」

つららはリクオが出て行ったドアを暫くの間見ていたが、小さく息を吐くと手の中に隠していた白い一通の封筒を見下ろした

「面倒だけど行って来るしかないわね」

時々貰うラブレター

今回はいつの間にかカバンの中に紛れ込んでいたそれに、つららは重いため息を吐きながら教室を後にした





夕焼け色に染まった体育館の裏

つららはラブレターに指定された場所で差出人が来るのを待っていた



相手が来たらすぐに断ろう



今回は早く済めばいいな、と心の中で呟きながら体育館の壁に凭れて相手を待った

学園五本指に入るつららは時々こうやって呼び出されることが多かった

大体は差出人不明のものが多く、いつの間にかカバンの中に入っていたり下駄箱の中に入っている事が多い

会うまで相手の顔が分らないので、すぐ断りに行くこともできず、こうやって毎回指定の時間に指定の場所で待つ事しかできなかった

自分にはリクオの護衛という大切な任務があるので、できるだけこういった無駄な時間は作りたくないのだが



「無視するわけにはいかないのよね・・・」



つららは手の中の封筒を見下ろしながら小さく溜息を吐いた

以前、呼び出しを無視したばっかりに「なんで来てくれなかったんだ」と、もの凄い剣幕で乗り込んで来られた事があった

その時は、側に居たリクオにとばっちりが向かってしまい迷惑をかけてしまった

それ以来、つららは面倒でも相手に会ってきちんと断るようにする事にした

しかし・・・・

「ほんと人間ってよくわからない」

ラブレターを寄越す相手の中には断ったにも関わらず懲りずに何度もアタックしてくる者もいた

今回もその類だろうと、会ったら瞬殺で断ろうと胸中で呟きながら溜息を吐いていた





一方その頃

「つらら、どこ行っちゃったんだろう?」

リクオはあれから清十字団の集まりに顔を出したのだが、つららの事が気になってこっそりと抜け出して来てしまっていた

きょろきょろと辺りを見回しながらつららの姿を探す

それらしい場所は探し尽くした

図書室

理科室

視聴覚室

屋上

階段の踊り場

校庭

しかしどこを探してもつららはいなかった

残るは・・・・



「あそこか?」

リクオはメガネを指先で直しながら脳裏に浮かんだ場所に溜息を吐く



あそこなら殆ど人は来ないな



今回もまたあの用事なのだろうとリクオは再度溜息を零した

彼女の挙動不審な様子と隠すように手に持っていた封筒を見れば一目瞭然

またあの側近はラブレターを貰ったのだ

しかも律儀に相手の指定した場所にわざわざ出向いている



「無視すればいいのに」



リクオはジト目のまま、ぼそりと呟いた

会いに行けばそれだけ相手を喜ばせ期待させてしまうという事をなぜ側近は分らないのか

しかも期待させた分、振った時の相手の怒りは倍増するのだ

その後の事を想像してリクオは身震いした

この前の奴も、前の前の奴も未だにつららの事を諦めてはいない

隙あらば、再度アタックしようとしている者もいる

これでまた悪い虫が増えるなぁ

と、リクオは面白くないと口を尖らせた

しかし、だからといってどうする事もできない

「こればっかりは難しい問題だよね」

リクオは眉根を寄せながら呟いた



恋愛は自由だ

誰に誰が告白しようと

誰が誰に振られようと



しかし、こう頻繁に側近に手を出されては堪ったものではなかった

リクオとしてはつららが呼び出される度に、おっちょこちょいの彼女がドジを踏むんじゃないかと冷や冷やしていた

うっかり相手を凍らせでもしたら「ごめんね」では済まされない



良くて「化けもの」と彼女が罵られるか

悪くて物言わぬ帰らぬ人へと相手がなるか



どちらも円満な学園生活を送る上で見逃せないと思った

そう、これは相手を守るためだ

断じて自分の側近に手を出す不届き者達の邪魔をするわけではない

これは人助けなんだ!とリクオは一人頷くとまたつららの姿を探して辺りをふらつくのであった


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