「気がついた?僕は男なんだよ」
顔はこんなだけどね、そう言ってつららを面白そうに見上げた
そして、ゆっくりとつららを逆さまにしたまま自分の顔の前まで降ろしてきた
「女なんて言ってないよ、勘違いしたのは君だろう?」
くすくすくすくす
そう言って楽しそうに笑いながらつららの顎を捉えた
「僕はね、美しいものが好きなんだ」
特に髪の毛が、そう言って重力に従って下へと垂れたつららの長い髪の毛を一房手に取り口付ける
「見てごらん僕の髪を、これは今まで襲った女の子達から集めたものなんだ」
そう言って男は、さらりと自分の長い髪の毛をかき上げて見せた
その男の髪の毛は夕日の光に反射してきらきらと光り輝いていた
その異様な輝きにつららは息を飲む
「それとね」
男はつららの反応を楽しむように目を細めると言葉を続けた
「美しい顔も好きなんだよ」
男の言葉につららはこれ以上ない位、目を大きく見開いた
「あ、なた・・・まさか?」
「ふふ、美しいものは全部僕のものさ」
髪も
顔も
体もね
男はそう言いながらうっとりと微笑んでみせた
つららは悔しそうに唇を噛む
そしてはっと気づいた
つららの視線――瞳ぎりぎりの場所に巨大な鋏が迫っていた
その至近距離に思わず息を飲む
しかもその鋏は口裂け男の右の手首から生えていた
まるで大きな蟹の鋏のようにごつごつした甲羅で覆われたそれは、どす黒い光沢を放っている
そして
良く見るとその黒い刃の所々に黒い染みのようなものがこびり付いていた
「ひっ」
つららはその染みの正体を理解すると小さく声を上げた
黒いと思っていたその染みは
真っ赤な――どす黒く変色した血の跡だった
シャキン
つららの耳に固い金属音が響く
その音は次第につららの髪へと近づいていく
シャキ・・・・
掠れた様な金属音を響かせて、真っ直ぐに垂れ下がった黒髪へとその二枚の刃を大きく開いた
「まずは髪から」
男がくつくつと喉を鳴らしながら呟く
「く・・・」
つららは堪らず目を閉じた
こんな奴に・・・・
自分はこんな奴の慰み者になってしまうのか
つららは悔しそうに歯軋りした
そして、男の巨大な鋏がつららの髪の毛を切り裂こうと動いた瞬間
キイィィィィィン
鋭い音が響いた
続いて体の拘束が緩む
「え?」
つららが目を開けて見た先には――
巨大な鋏の片刃を切られ苦痛に顔を歪める口裂け男の姿が見えた
そしてその先
口裂け男の背後では
白銀の長髪をたなびかせ、鋭い眼光を男へと向ける百鬼の主の姿があった
「リクオ様」
つららは地面に落ちた格好のまま嬉しそうに主の名を呼んだ
「俺の側近に何てことしやがる」
つららの姿をちらりと一瞥したリクオは、怒りも露わに目の前の男へと視線を向けた
「キサマ・・・・いつもいつも俺の邪魔を!」
男は叫ぶなりリクオに向かって巨大な鋏を振り上げた
ギイィン
相手の鋏を難なく受け止めたリクオはそのまま横へと流す
「く・・・」
たたらを踏んでよろめいた口裂け男がリクオを睨みつける
「お前、ただの口裂け女じゃねえな?」
「ふ、そうさ僕は口裂け女と髪切りの息子・・・・」
口裂け髪切り男だ!!
男は声高々に己の正体を宣言した
「・・・・・」
男の言葉にリクオは無言で見つめ返す
「な、なんだ?」
その視線に口裂け髪切り男は冷や汗を流した
そしてたっぷり三十秒の間をあけてリクオが徐に口を開いた
「長い」
「は?」
男はリクオの言葉に間の抜けた声を上げる
「な、何を・・・」
「名前長げぇ・・・・」
男の言葉に答えるようにリクオがぼそりと呟いた
「なんだとっ!!」
その言葉に男は顔を真っ赤にさせて怒鳴る
「名前長げぇって言ってるんだ、わかんねぇのかこの野郎」
ぴきぴきぴきぴき
リクオは男の胸倉を掴むと青筋を何本も立てながら至近距離で怒鳴った
その顔は地獄の閻魔よりも恐ろしい表情をしている
ぴきぴきと米神に青筋を立て、口元を引きつかせるリクオは本気で怒っていた
「つーか、俺の側近あんな目に合わせやがって覚悟はできてるんだろうなぁ?」
「ひっ!」
目元に暗い影を落として地を這うような声で言ってきたリクオに、それまで怒っていた口裂け髪切り男は恐怖に体を震わせた
チャキリ
どす黒い畏れを纏いながらリクオは弥々切丸を男に向けて構える
「ひぃぃぃっ!!」
その姿に完全に戦意喪失した髪切り男は、ついには尻餅をついてリクオを見上げていた
「つらら」
「はい!」
リクオが静かに言葉を紡ぐと、答えるようにつららが頷く
ゆらり
つららの輪郭が歪み畏と共にリクオの体に纏われる
「思い残すことはないな」
「ひ・・・」
ひいいいいいいいいいい!!
夜の蚊帳が降り始めた体育館の裏で、悲痛な叫び声が長く長く響いていた
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