その時である

ぱたぱたぱた、と聞き覚えのある足音が聞こえてきた

そのすぐ後に襖越しに愛しい女の声がかけられる

「あの、リクオ様よろしいですか?」

「つらら?今着替え終わったところだよ、入っていいよ」

つららは主の許しを貰うと、そっと襖を開き外から顔だけを覗かせてきた

「リクオ様、お夕食の準備ができました」

そう言って笑う彼女の顔は愛しくて

リクオはにっこりと微笑むと、つららに向かっておいでおいでと中へ入るように誘った

「どうしました?」

つららは何の警戒心も無く部屋に入る

そんなつららを更に愛おしく感じながらリクオはそっと抱き寄せた

「り、リクオ様!?」

突然の事に驚くつららの耳元でリクオがそっと囁いた

「うん、毎日大変なのにご苦労様、て思ってね」

感謝の気持ち、そう言ってリクオははにかんだ

途端花の様に顔を綻ばす彼女にリクオはさらに愛しさが募る

「つらら」

ん、と目を瞑って催促すれば、少しの間躊躇った後ちゅっという軽いリップ音が聞こえてくる

同時に唇に触れる柔らかくて冷たい感触に気を良くしたリクオは、目の前で真っ赤になっているつららにお礼の口付けを落とした



十秒



二十秒



三十秒



パシパシパシ



よんじゅ・・・「ぷはっ」



記録更新はできなかった

手を突っ張り顔を真っ赤にさせて肩で息をしているつららに、リクオは「ごちそうさま」とにやりと笑う

「もう、苦しいです」

悪戯はお止めください、と荒い息をしながら言う側近に「悪戯じゃないんだけどなぁ」とリクオは困った顔をしながら言った

「さ、もう夕食が冷めてしまいますよ、行きましょう」

つららはまだ赤い顔のまま俯き加減でリクオを部屋から出すと大広間へと背中を押していく

つららに背中を押されながらリクオは「あ」と小さく声をあげた

「どうしました?」

「うん、今度の休みの日つらら空いてる?」

「今度の休みですか?」

「うん、一緒に買い物に行こうと思って」

リクオの言葉に首を傾げていたつららだったが『一緒に買い物』と言う単語を聞いて、顔をぱっと輝かせた

「お買い物ですか?何を買うのですか?リクオ様と出かけるのならお供します!」

「何を買うかは内緒。行ってからのお楽しみだよ」

にこにこと嬉しそうにはしゃぐつららに、リクオは言いながらくすりと笑った

リクオの言葉を聞いた途端、つららは「内緒なのですか?でも楽しみですね」と満面の笑顔で頷いてくれた



本当に楽しみだ



そんな可愛らしい側近を見ながら、リクオは内心ガッツポーズを決めていた


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