「少しぐらいいいじゃねえか」
リクオは尚も喰らい付いてきた
「ダメです」
「むう」
しかしつららも頑固で頑なに首を縦には振らない
リクオはますますもって納得がいかないと口を尖らせた
そんなリクオの姿につららはくすりと笑うと
「しょうがないですねぇ」
「お、気が変わったか?」
「違います」
つららの言葉に嬉しそうにぱっと顔を上げたリクオだったが、そんな主につららは間髪入れずに否定の言葉を吐いた
その途端またもやがっくりと項垂れる主を見てまたくすりと笑う
「熱燗つけますから今日はそれで我慢してください」
言ってすぐさま台所へと行ってしまった
「いつもそれで逃げるじゃねえか・・・・」
愛しい女の消えた廊下を恨めしそうに見つめながらリクオは口を尖らせたまま呟いていた
「はい、リクオ様」
つららはそう言って酒を勧めた
可愛らしい笑顔と共に勧められれば断る理由も無く、リクオは勧められるがままに酒を呑んだ
「まあ良いけどよ」
「まだ言ってるんですか?」
今だ機嫌の直りきらないリクオにつららは苦笑する
「お前実は俺の事嫌いなんじゃないか?」
隣で笑いを堪えているつららにリクオは意地悪く問うと
「そんな事ありません!」
きっぱりと否定するつららに少しだけ気を良くしたリクオは「しょうがねえな」と小さく呟くと苦笑した
惚れた弱みだしょうがねえ
リクオは半ば諦めたように嘆息すると、胸の中で燻る想いを紛らわすように酒を呷った
暫くつららと二人きりの時間を楽しんでいると、隣の纏う空気が変わった
見るとつららは燗を手に持ちながら、こくりこくりと船を漕ぎ出していた
またか、と溜息を零す
最近のつららは夜になるとすぐ眠気が襲ってくるようだ
別に不眠症と言うわけではなく、どちらかと言うと夜はぐっすり眠っている
妖怪にあるまじき姿なのだが、毎日のつららの行動を良く知るリクオとしては、不満はあれど文句を言う気はさらさら無かった
ちらりとつららを見ると
いよいよもって眠りの淵に落ちかけていた
口は薄っすらと開き、とろんとした瞼の周りは赤みを帯びている
時折はっと気づいてはすぐまどろみ始め、かくんかくんと首が重力にしたがって垂れ下がろうとしていた
手に持った熱燗がこぼれては大変だと思い、リクオはそっとつららの手から燗を取り上げるとお盆に戻す
ついでにつららの肩を抱き寄せ己の膝の上に横にさせると、暫くして静かな寝息が聞こえ始めた
「毎晩これじゃあなぁ・・・」
リクオは頬杖をつきながら嘆息する
これはこれで嬉しいのだが、毎晩これでは困る
つららと過ごす夜の自分との時間を台無しにされてはたまったものではない
「いつかシメるか?」
そんな不穏な考えが脳裏を過ぎった
それもこれも皆あいつらのせいだ
ここにはいない悪い虫たちの顔を思い浮かべてリクオは舌打ちするのであった
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