花の形を模った無数のダイヤの粒はその光を反射してキラキラと輝いている

リングの部分も細いそこに繊細な雪の結晶の模様が彫られていた

見るからに高そうなその指輪を、果たして自分が貰っていいものなのかと躊躇ってしまった

「つららに受け取って欲しくて買ったんだよ」



受け取ってもらわないと困るんだけど



困ったようにリクオに言われてしまい、つららは慌ててその指輪を受け取った

「あ、ありがとうございます、ほんとにほんとに家宝にします!!」

つららは何度も頭を下げてリクオに礼を言う

そんなつららの様子を微笑ましげに見ていたリクオだったが、徐につららの左手を取って引き寄せた

「リクオ様?」

リクオの突然の行動につららは下げていた頭を上げてリクオをまじまじと見つめた

そんなつららに笑みを零すと、リクオはつららから指輪を取り上げその細く華奢な指に指輪を嵌めてしまった

しかもその嵌めた先は――



薬指だった



つららは己の左薬指に嵌められた指輪をまじまじと見つめる

「とっても良く似合うよ」

リクオはつららの手を取ってそっと囁いた

「ありがとうございます」

つららはリクオの顔を見上げると花が綻ぶように満面の笑顔で笑いながら嬉しそうに礼を言う

二人は暫くの間指輪を眺めていた

ふとリクオが思い出したように口を開く

「あ、その指輪ずっとしててね、約束だよ」

そう言って笑うリクオの顔はどこか昔見た悪戯っ子の時の顔とダブって見えた

見間違いかと目を擦って再度リクオを見てみるが

その顔は先程と同じで、何かを企んでいる様な悪戯を思いついた幼子のような顔をしていた

つららはそれ以上追求してはいけないと、心のどこかで悪寒に見舞われながらただ素直に頷く事しかできなかった





その後、大学で薬指にエンゲージリングを嵌めているつららの姿が何度も目撃された

「奴良てめぇ」

リクオは大学の同級生達に囲まれていた

みな揃いも揃って滝のような涙を流している

「どうしたのみんな?」

リクオは己を囲む同級生の顔を見ながらとぼける様に聞き返した

「しらばっくれんな」

「及川さんのあの指輪だよ!」

「お前が贈ったってのは本当なのか!?」

男達は口々に捲くし立てる

怒りも露に詰め寄ってくる同級生を気にも留めずリクオは爽やかな笑顔で答えるのであった



「うん、僕達婚約してるからね」



リクオの唐突な告白に一同口をあんぐり開けて固まってしまった

そんな同級生に更に追い討ちをかけるかの如く、リクオの背後から軽快な声が聴こえて来た

「リクオ様〜」

つららが手を振りながらリクオの元へ走ってきていた



今リクオ様って言ったか!?



それまで固まっていた男達はさらに衝撃に顔を強張らせた

リクオはそんな彼らににやりと笑みを向けると

「つららは僕のものだから手を出さないでくれる?」

そう言うともう用は無いとばかりに踵を返し愛しい恋人の元へと歩いて行ってしまった

後に残った敗北者達はと言うと――

真っ白に・・・真っ白になってその場で固まっていた

その様子を盗み見たリクオはくすりと笑った



これでもう悪い虫はつかないね






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