リクオは止めとばかりにすぐ側にあった酒を勧めた

「つらら、こっちのは口当たりも良くて飲み易いらしいぜ」

と言いながらグラスに入ったそれをつららの目の前に持ってきた

「きれい・・・」

火照った顔でつららは感嘆の声を漏らす

つららの目の前に置かれたグラスにはピンク色のシャーベットが入っていた

可愛らしく苺までのっている

照明に照らされてキラキラと光を反射するそれはもちろんお酒なのだが、つららは特に何も考えずグラスに備え付けられていたストローに口をつけた

気に入ったらしく、ちゅうっとおいしそうにシャーベットを飲むつらら

火照った体に気持ちいいのかあっという間に飲み終えてしまった

「ふう」

「おいおい、そんなに一気に飲んだら」

リクオの静止も虚しく一気に飲み干したつららは更に真っ赤な顔になりふらふらと体を左右に揺らし始めた

「えへへへ〜」

完全に酔っ払ってしまったつららは上機嫌にリクオに擦り寄ってくる

「わ〜か」

「なんだ?」

赤い顔のまま潤んだ瞳で見上げてくる側近に苦笑しながらリクオはつららの顔を見下ろした

ぼおっとリクオの顔を見つめていたかと思うと「幸せです〜」とその懐に擦り寄ってきた



チャーンス!



リクオは内心ほくそ笑んだ

ここまで泥酔したつららなら大抵の事は大丈夫だろう

そう確信したリクオはニヤリと何かを企んでいるような笑みを浮かべるとつららの耳元へと唇を寄せた

「なあ、つらら」

「ふあい?」

既に呂律も回らなくなってきたつららは朦朧としながらもリクオを見上げた

「頼みがあるんだが」

そう言って真剣な眼差しを向ける

「はい、なんでしょう?」

つららは「リクオ様のお願いなら何でも聞きます」とへにゃりと笑った

「そうか、じゃあ」

そう言いながらリクオはつららの耳元へ唇が触れそうな位近づくと、そっと囁いた



「俺に口吸いしてくれ」



「へ?」

つららはリクオの言葉を理解しきれず変な声をあげた

「だめか?」

リクオは間髪入れずに切なそうな視線を向ける

そんなリクオの視線につららは恥らうように瞳を伏せると

「そんなにしたいんですか?」

「ああ」

リクオはすぐに頷く

そんなリクオにつららはくすりと笑うと「もう、どうなっても知りませんよ〜」と言いながらゆっくりと顔を近づけて来る



これで、これでやっと



リクオは近づいてくるつららの顔に嬉しそうに目を細める

だんだんと近づいてくるつららの顔

火照った頬に真っ赤に潤んだ瞳

ぷるんと柔らかそうな果実のような唇

その全てに目を奪われながら近づいてくるつららを優しく抱きとめると、リクオもまた瞳を閉じた

その数秒後



ちゅっ



という軽いリップ音のあと全ての時が止まった

一つに重なる男女の体

お互い唇を合わせたまま微動だにしなかった

つららはリクオの胸に手を置き瞳を閉じたままでいた

リクオはつららの背中に添えた手が僅かに震えていた

しかも瞳は見開き顔は青白さを通り越して蒼白になっていた

次の瞬間――



「ぐはっ・・・ごほっごほっ・・・」

リクオは、つららから慌てて離れると喉元を押さえて苦しそうに身悶えた

「だから・・・言いましたの・・・に・・・・」

つららはとろんとした目でリクオに言うとその場に崩れ落ち、スヤスヤと眠ってしまった

案の定、リクオはつららの口吸いにより喉はおろか、肺まで凍らされる羽目になってしまった

妖怪の姿であったリクオは、その数十分後になんとか復活したのだが

リクオはなんともやるせない視線を隣で気持ち良さそうに眠るつららに向けながら溜息を吐いていた



「くそっ、大丈夫だと思ったのに・・・・」



まだまだお預けは長そうだ、と一人肩を落とすリクオであった






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