「そ、それは・・・なんでまた?あの二人は仲良かったんじゃないのか?」

力を込めて言う毛倡妓に、首無しが慌てて聞き返す

「あら首無、気づかなかったの?最近のリクオ様はどこかつららに冷たかったのよ」

睨みつけるように首無に教える毛倡妓はどこか怒っているようだった

首無の思う通り、毛倡妓は怒っていた

最近のリクオの態度はあまりにも酷いのではないかと



誕生日の前まではあんなに仲睦まじくしておられたのに



毛倡妓は、もうすぐリクオ様の誕生日だと頬を染めて喜んでいるつららの事を思い出した

つららはリクオが成人するのを心待ちにしていたのだ

姉の様に友のようにつららの相談を聞いていた毛倡妓にだけそっと教えてくれたことがあった

「内緒よ毛倡妓、実はね・・・・」

頬を染めながらリクオと交わした”約束”を教えてくれたのはつい最近のことだった

その話を聞いた時、毛倡妓は自分の事のように喜んだ

「あら、そういう事ならお色気たっぷりの下着を売ってるところ教えちゃおうかな〜」

などと冗談交じりで話していたのが嘘のようだった



あんなに泣いて憔悴しきったつららは見たこと無いわ



毛倡妓は何もしてやれない自分が情けなくてきつく唇を噛んだ

「し、しかしあのリクオ様がつららに愛想を尽かすわけが・・・」

「甘いわね、男心と秋の空・・・よ」

「し、しかし・・・・」

「取り合えずリクオ様が帰ってきたら話を聞いてみましょう」

そう言った毛倡妓の顔は、夫の浮気現場を目撃した本妻のような顔をしていた

ひぃっと内心悲鳴を上げながら、首無はリクオの安否を心の中で心配するのであった







そろそろいいかな・・・・

リクオは手に持った小さな箱を見ながら心の中で呟いた

久しぶりに会ったカナと近くの喫茶店で暫くの間話をしていたリクオだったが、実は置いてきたつららの事が気になって気になって仕方が無かった

さすがにあれはやり過ぎたかと思ったリクオはその後カナとすぐに別れ、つららを置いてきた場所まで急いで戻って来たのだが、結局つららは既にそこにはいなかった

怒って帰ってしまったのだろうと思ったリクオは、お詫びの印に以前つららが食べたいと言っていたケーキを買って帰っている途中であった



少しやり過ぎたかな?



ケーキの箱を見つめながらリクオは少しだけ反省していた

ある目的の為とはいえ、つららには随分冷たくしてしまったのではないかと今更になって不安になってきたのだった

基本つららに甘過ぎるリクオは、ここまでつららを無視した事は無かった

見たい触れたいという溢れ出る欲求を無理矢理押し込んでいたこの4日間は、リクオとしては苦難の日々だった

しかし、7年間耐えに耐え抜いてきたのだ

最高のデザートの前にはこんな苦しみなど大した事はない

そう、リクオは最高の形でおいしくつららを頂くために『アメとムチ』方法を企てていた

リクオの企みはこうだった――



まずつららに冷たくする

    ↓

つららが不安になる

    ↓

不安になり過ぎたつらら暴走!

    ↓

「リクオ様じゃなきゃダメなんです!」

    ↓

そこですかさずリクオが優しくする

    ↓

「ああん、リクオ様〜好きにして〜」

    ↓

めくるめく夜へGO!



という、本当にどうしようもない事を考えていた

ここに側近の妖怪達がいようものなら

「これでいいのか3代目?」

「大丈夫か総大将?」

などと少々いや・・・大いに奴良家の将来を心配したに違いないのだが・・・・

幸か不幸かその事を誰一人として知るものはいなかった

結局リクオも男なのである

惚れた女にはとことん甘くバカにもなれる

時としてそれが大きな失態となることも知らずに

リクオはまだ知らない

自分の犯した罪の重さに

かけがえの無い愛しい者を失うかもしれないという事実に

そして女を敵に回すということの恐ろしさも



爆弾投下まであと数分


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