明け方にはまだ早い薄闇の残るその時間

リクオは隣で眠る愛しい女の寝顔を眺めながら考えを巡らせていた

陶器のような肌理細やかな肌に指を這わせ何度もつららの頬を撫でる

肌触りの良い感触を楽しみながらリクオはある決心をした

「明日にでも話をしてみるか」

と――



次の日の朝、リクオは少し不機嫌な顔をしたまま祖父の部屋を訪れていた

屋敷の奥にある広い部屋の前に来ると、「おじいちゃん、ちょっといい?」と部屋の中の人物に向かって声を掛けた

しかし、待てども待てども部屋の中からは「おおリクオか?どうしたんじゃい?」という、いつものしわがれた声が聞こえてこなかった

「おじいちゃん、いないの?」

いい加減痺れを切らせたリクオは、そっと襖を開けて中を伺った

しかしそこはもぬけの殻

「あれ?どこ行っちゃったんだろう?」

庭にでも出ているのかな、と縁側から庭に出て辺りをキョロキョロと見渡していると

頭上からバサリと羽音が聞こえてきた

見上げると、空の警護を終えた黒羽丸がこちらに降り立つところだった

ストンと軽い音を立てながらリクオの目の前に降り立った黒羽丸は、主の顔を見るなり「如何なされましたか三代目」と言いながらその場に膝を折った

「ああ、おじいちゃんを探してたんだけど」

黒羽丸は知らない?と足元に跪く黒羽丸に問いかけた

すると黒羽丸は顔を上げ、リクオにこう答えた

「ぬらりひょん様なら父上達と慰安旅行に出かけました」

その言葉にリクオは目を見開いて叫んだ

「ええ!いつの間に!それでいつ帰ってくるの?」

「はい、今朝お早く発たれまして、一週間後にはお戻りになられるそうです」

「一週間・・・・」

リクオは黒羽丸の言葉に眉根を寄せると、途方に暮れたように空を見上げてぽつりと呟いていた











とりあえずリクオは、どこに向かうのかも言わず旅行に出てしまった祖父の帰りを一週間の間、大人しく待つ事にした

しかしその間、大学生活をそつなくこなしていたリクオに、新たな悩みが生まれた

それは、つららの態度だった

つららはリクオと初めての夜を共にした日から、何故か余所余所しくなった

夜を共にした次の日の朝(当日は一日一緒に居たため)は、顔を合わせるなり一目散に逃げて行き

その後の朝食も、手がちょっと触れただけで悲鳴を上げ、持っていた茶碗を天井にメリ込ませ

大学に行く道のりも、いつもよりも数メートル離れた場所から付いて来る始末

終いには青田坊に

「何かあったんですかい?喧嘩でもしなすったんで?」

と心配までされてしまった

それにはさすがのリクオも笑うしかなかった

「そんな事ないよ、大丈夫だから」

と、青田坊には笑顔で返し

ちらり、と背後のつららを盗み見る

顔を真っ赤にさせて俯くつららに、ふっと笑いが漏れた

だってこれはどう見ても――



照れてるよね・・・・



つららのこの反応はどこからどう見ても、恥ずかしさ故の行動に見えた

鈍いリクオでも、こうもあからさまに態度に出されれば判るというもの



まあ、今まで何の進展もなかったからなぁ〜



仕方ないよね、とリクオは嬉しいやら可笑しいやら照れ臭いやらで、思わず顔がにやけてしまった

この時は、つららの反応に嬉しそうに微笑むリクオであったが

しかし事態は良くなるどころか益々酷くなる一方で

その後「どうしたらいいんだ〜」と頭を抱えるリクオが何度も目撃された


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