「リクオ様はまだか?」
「3代目がおらねば会議ができんではないか!」
古参の妖怪達は口々に文句を並べ立てている
そんな側近達に既に隠居の身となっているぬらりひょんは苦笑をするばかりで助け舟を出そうとはしなかった
もうこの組はリクオのもの
己の組員に気を遣う総大将など聞いたことが無い、待たせておけばよいのだと
そう存外に態度で示していた
やんややんやと、ぶちぶちと文句を垂れる妖怪たちの目の前で突如としてそれは起こった
「うおっ」
「なんだ!?」
目の前――部屋の中央で突然巻き起こるつむじ風
それは次第に大きくなり終いには部屋中を巻き込む竜巻へと変化した
ビュオォォォォォォォォ
冷気を纏ったその竜巻は冷たい氷の礫を巻き込みながら忽然と消え失せた
竜巻の消えた部屋の中央には――
不適な笑みを称えた美姫が佇んでいた
「久しいの」
女は嵐の後のような部屋の中でのんびりとそんな事を言う
用意されたお膳はひっくり返り、襖や畳は所々氷が張り付き、中にいた妖怪達は何人か飛ばされたのか部屋の隅で倒れていた
「ひっ」
「お、お前は!」
突然現れた女を見るや、古参の妖怪達は急に怯えだしてしまった
「なんだ?」
鴆や猩影などまだ若い妖怪達は何事かと首を傾げていた
「ほう、若い者も入ったようじゃな」
女は鴆や猩影を見ながら面白そうに呟く
「久しぶりじゃな・・・・雪」
少し離れた場所から懐かしむような声が聞こえてきた
その声に女はぴくりと反応する
ゆっくりと声のした方に振り向き相手をその視界に捉えると女は黄金色の瞳で相手を見据えた
「ぬらりひょんか」
ぬらりひょんもまた女をじっと見上げる
しんと辺りに静寂が落ちた
皆が皆、固唾を飲んで二人の動向を見守っていた
「貴様・・・」
その静寂を破ったのは女の方だった
震える唇でひとこと呟く
次の瞬間――
「妾の名を誰が呼んで良いと言ったぁぁぁぁぁぁっ!!」
ヒュゴオォォォォォォォォォォッ
女の怒声と共に今度は猛吹雪が起こる
般若の如く怒り狂った女は部屋の妖怪という妖怪達をことごとく氷漬けにしていった
「ぬおっ!相変わらず過激じゃわい・・・」
ぬらりひょんは女の起こす吹雪を器用に避けながら部屋を逃げ出していた
安全な廊下まで非難するとやれやれと溜息を吐きながら苦笑する
気づかれないように畏れを発動させて部屋へと続く廊下を歩く姿はさすがと言うか何というか・・・・
したたかさは昔も今も変わってはおらず、いや年を経てさらに磨きがかかったといえよう
何事も無かった様に飄々と廊下を進むぬらりひょんの耳に、バタバタと廊下をかけてくる足音が聞こえてきた
まったく、ようやく来おったわ・・・・
いささか遅すぎる登場にぬらりひょんは肩を竦めた
角を曲がって慌てながら現れたのは案の定リクオ達で、ぬらりひょんを見るや血相を変えて近づいてきた
「おじいちゃん、こっちにその・・・雪女が来なかった?」
青褪めた顔で詰め寄る孫に「そういえば・・・・」とのんびりとした口調で答えてやる
「あっちにおったぞ」
あっちと指差す場所は、今日定例会議が行われる予定だった部屋で・・・・
リクオ達は「ひいっ」と悲鳴を上げるとあわあわと駆けて行ってしまった
廊下に一人ぽつんと残されたぬらりひょんはというと
「まったく騒がしい事じゃわい」
と言いながら首を左右に振ると、月明かりに照らされた廊下をぬらりくらりと歩いて行った
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