結局、定例会議どころではなくなってしまった奴良家では、被害を免れた妖怪たちが凍らされた仲間達を救助するべく右往左往していた
この騒ぎの中リクオはというと、木魚達磨や他の側近達に詰め寄られている最中だった
「これはどういう事ですリクオ様?」
「え、え〜と・・・」
リクオ自身、今日突然やってきたつららの祖母の事をどう説明していいかはっきり言ってわからなかった
つららの祖母――転校生のユキ――とは先程顔を合わせたばかりだ
清十字団の集まりにいきなり参加していたかと思ったら、「しばらくの間奴良家に世話になる」と言って勝手に来てしまったのだ
そしてあれよあれよと言う間にこんな騒ぎになってしまったのだ
しかも今回の騒ぎの張本人でもあるユキはというと、手頃な側近を2〜3人捕まえて勝手に部屋の準備をするように言いつけると、隣の部屋でくつろいでいた
傍若無人を地でいくユキに、リクオも怒りを通り越してただ只呆れるばかりである
「と、とにかくこれ以上被害が大きくならないように『あの人』はあまり刺激しないようにして、ね」
と部屋の中で水煙草――どこから出してきたのか――を咥えるユキをの事を詰め寄る側近達に注意しておくのが精一杯であった
「ですが・・・」
しかし納得がいかないと、側近達は尚も詰め寄ってくる
ほとほと困り果てたリクオは「と、とにかく刺激しちゃダメだからね!」と、一言言うと逃げるようにその場を後にした
自慢の俊足で何とか逃げてきたリクオは離れの廊下まで来ると「ふう」と溜息を吐いて足を止めた
静かだ
さっきまでの騒ぎが嘘のように、ここは静かだった
問題は山積みだったが暫しの心地よい静寂にリクオはほっと息を吐く
今日一日で色んな事が起こった
その全てはあのユキが原因なのだが・・・・
そもそもユキは何故ここへ来たのだろう?
以前孫であるつららを理由に自分を雪山まで呼び寄せ、今度は何を企んでいるのか・・・・
悪戯好きであるぬらりひょんの孫も、あの自由で気ままな美しい雪女の真意を測りかねていた
「本当に何しに来たんだろう?」
リクオは縁側に腰を下ろしながら一人呟いていると、背後から恐る恐るといった気配が伝わってきた
その気配に振り返ると、申し訳なさそうな表情をしたつららが立っていた
「申し訳ありません」
つららはリクオが振り返るや頭を下げて謝ってきた
「え、どうしたのつらら?」
リクオはそんなつららに驚いた風に首を傾げた
「はい、今回の騒ぎはわたくしの祖母が致した事です、責任はわたしにありますので」
そう言ってうつむくつららにリクオは慌てて抗議をした
「や、そんな悪いのはつららじゃないよ!連れて来た僕にも責任があるし」
リクオがそう言ってもつららは「でも・・・」と体を小さくして俯くばかり
これは木魚達磨辺りに何か言われたな?
そう悟ったリクオは勤めて優しくつららに語りかけた
「今回の事はつららのせいじゃないよ、まあ、あの人が来たくて来たみたいだし。何かあったら僕も相手するから、そんな顔しないで」
優しく諭しながら俯いたつららの頬にそっと手を添える
「若・・・」と潤んだ瞳で見上げられリクオは「うっ」と違う意味でたじろいでしまった
ん〜こういうつららも可愛いな
不謹慎にもそんな事を心の中で呟き自然と頬が緩んでしまう
突然にへら、と笑い始めたリクオにつららは訝しげな視線を寄越しながら「若?」と首を傾げた
「ん、ああ大丈夫、あの人も何日かしたら飽きて帰るだろうし、それまでの辛抱だよ。」
ね?と笑顔で聞いてくるリクオにつららはそれ以上何も言えなくなってしまった
しかも、リクオに「その間は一緒にフォローしようね」などと言われてしまえば、不安よりも嬉しさの方が勝ってしまい、つららはやっと笑顔に戻ると元気良く頷いた
お互い相手を見つめながら笑い合い、仲良く並んで縁側で小休止をしたあと、二人は今だ凍った仲間を溶かすのに騒いでいるであろう騒ぎの中へと戻っていった
一方その頃、今回の元凶でもある人物はというと――
二人の仲睦まじい姿をこっそり覗きながら、ほくそ笑んでいたという
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